2009年11月6日 (金)
とうもろこしの謎 4
〜前回からの続き〜
「C嬢は、誰かに代わってこの問いを発したのではないか?」 私がそう感じた理由は、2つありました。
第一は、簡単な話、私の畑は高い位置にありますから、C嬢が彼女の母親であるお婆ちゃんを訪ね、そのついでに私の畑を見上げたとしても、目の前に立つ壁が見えるだけで、その上に生えている作物は見えないのです。
ですから、あるひとつの作物だけに関して質問するというのは、少しおかしな感じがするのです。
第二の理由は、彼女の夫W氏です。 彼は元庭師ですから、大麻ととうもろこしの違いぐらい知っている筈です。
仮にC嬢が、私の畑に登って来て作物を見たとして、彼女自身が「あれは大麻かしら?」と思ったのなら、誰よりもその答えを知っている人物は、彼女が一番そういったことを聞きやすい人物でもありますから、わざわざ私に質問する必要などないわけです。
まぁ、もっとぶっちゃけて言うならば、私の予想では、C嬢自身大麻がどんな物かぐらい知っているでしょうから、彼女がわざわざ私の畑に来て作物を見たのだとしたら、それが大麻とは似ても似付かないものであることは、容易に分ったと思うのです。
100歩譲って、二人が大麻を知らなかったとしても、W氏がとうもろこしを知らないということは、まず考えられません。
その結果、私が行き着いたのは、「この質問は、誰かがC嬢に発し、それをC嬢が自分で確かめたり、W氏に聞いたりする前に、あまり深く考えず気軽に、私へ直接聞いたのではないか」という考えです。
では、「みんつの畑には大麻が植わっている」と疑ったのは、誰でしょう? 私の畑を見ることが出来て、大麻ととうもろこしの違いが分らない人物は、誰でしょう? その疑問を村の誰かに聞くのでも、私に直接聞くのでもなく、敢えてたまにしかこの村を訪れないC嬢に話すのは、一体誰でしょう?
私は前々回、「私の畑は、わざわざその為だけに足を運ばなくてはいけない場所にある」と書きました。 今日、「私の畑は、道路からは見えない高い位置にある」とも書きました。 そしてもう一つ、「私の畑は、周りを牛舎に囲まれているので、他の家からはちょうど隠れたような場所にある」のです。
つまり、誰かが私の畑に植わっている作物を見たいと思ったなら、その人物は私の畑に足を運び、柵の所までやって来て、中を覗くことになります。 但し、もしその人物が、私の住んでいる家に住んでいなければ。
そうです、私の部屋は畑より高い位置にありますから、私や夫B氏が畑を眺めたいと思ったら、窓から見下ろせば良いだけです。 そして、そう、もう一人、自分の部屋の窓もしくはバルコニーから、私の畑を見下ろせる人物がいます。
私の知る限りその人物は、畑にはじゃが芋とレタスぐらいしか植えませんから、その他の作物について、あまり知識がないようです。 また、視力が衰えている為、自身の部屋から私の畑を見下ろした場合、とうもろこしをひょろりと高く伸びた植物としか認識できない可能性も、ないとは言えないでしょう。 そう、大麻のように、ただ真っ直ぐに上に伸びる植物です。
そういえばその人物は、私といざこざを起こすまで、毎日バルコニーから私の畑を観察し、干渉していましたっけ。 私ともめた後のその人物は、C嬢を通して、ありもしない難癖を付けてきたりもしていました。
そこまで考えて私は、幾らか居心地が悪くなりました。 証拠がないのに誰かを疑うのは、良いことではありませんからね。 推理小説としては面白いかも知れませんが、実際にそんなことをする人がいるなんて想像は、気味が悪いですし。
ただ、言い訳を許して貰えるなら、人間関係は片方だけでは成り立ちませんから、疑われるにはそれなりの経緯もあるのでは、とも思いますが。
ということで、私は、これ以上この謎を解くのを止めました。
「みんつ、この標高でとうもろこしは、収穫できないよ」 ……村の皆さん、標高だけではないようです。 |
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