2008年1月24日 (木)
酪農家見習い 3
〜前回からの続き〜 (このシリーズは、毎回一話完結ですので、前回分を読んでいなくても問題なしです。)
酪農家の真似事を始めてから、私には、必要になった物があります。 それは、ゴム長靴です。
駄目になっても良い様にと、私は、持っている物の中で一番古い革靴――足首まであるトレッキング・シューズ風の物です――を履いてはいましたが、それでは干し草が靴下に付いたり、ズボンの裾から中に入ったりして、ちくちくするのです。 また、普通の靴では、革や中側の生地が、発酵させた乾し草の匂いや牛糞の水分を吸収し、ものすごく臭くなってしまうのです。
やはり酪農家の人達が履いている様に、ある程度丈が長く、中も外も水洗いの出来る靴=ゴム長靴が、牛舎の作業には一番適している、というわけです。
私が手伝いをしている酪農家夫妻は、「うちにある長靴を使えばいい」と言ってくれますが、「自分が使う長靴ぐらい、自分で用意すべきかな」とも思いましたし、そこの長靴は、どれも私の足には大き過ぎます。
ということで私は、近くの町のとある店に、夫B氏と行きました。
そこは、田舎暮らしに必要な作業道具が揃えてあり、食料品は――ワインや小麦粉等買い置きの利く物。生鮮食品は扱っていません。――大家族用でしょうか、特大サイズで売られていて、この辺りでは『酪農家御用達』とでもいう感じの店です。
店内に入った私は、もちろん真っ直ぐに長靴コーナーへ行きます。 「あった、あった。B氏、色んな種類があるよ」 「おお、どれにする?」 「どうせ一冬しか使わないと思うし、一番安いので良いよ。20〜30フラン(2〜3千円弱)位って思っているんだけど」 「あるぞ、その位で。一番安いのは、9,5フランだ」 「え、すごい安いじゃん。それで良いよ」
ところが残念な事に、この値段の長靴では、私のサイズがありませんでした。 「次に安いのは、15,9フランだ。みんつのサイズは幾つだ?」 「38か39。メーカーによっては、37でも履けるけど」 「39ならあるぞ。っていうか、殆どの種類が41以上しかないな。小さいのがあるのは、これとこれだけだ」
そう言ってB氏が取りだした2つの長靴は、試してみたところ、どちらも私の足には大き過ぎます。 「ここの長靴、大き過ぎじゃない? これ、普通の39より遙かに大きいよ」 「38があるのは、この種類だけだな。これなら、36まである」 ところが何と、その36ですら、私の足にはぶかぶかです。
ちなみに私の足は24,5cmでして、スイスでこのサイズは、大人用の小さい靴(下から2番目位?)、もしくは子供用の一番大きな靴に入ります。 日本では、最近の子供達は大きくなっているのでしょうが、一般的な女性ですと23cm位でしょうか、これは子供用で探した方が早いです。
「仕方がないなぁ、高いの買わなきゃ駄目なのかな? 単なるゴム長靴に、90フランも出したくないなぁ」 「でも、必要だろう? この値段でも、みんつが欲しいなら、俺は良いぞ」 「うーん、何でこっちはこんなに高いんだろう?」 「あ、ここ見ろよ。ダンロップって書いてある。これ、車のタイヤ・メーカーだ」 「えっ、ひょっとしてこの長靴、タイヤで出来ているの?」
私達がそんな話をしていると、如何にも「酪農家です」といった風貌の、体格の良い女性店員が近付いて来ました。 「お手伝いしましょうか?」 「牛舎で履く長靴が欲しいんですけど。あの、こっちの長靴は、他のより随分高いですよね。違いは何ですか?」
するとその女性は、私の目の前で拳を作ると、ドアをノックする様に、その長靴のつま先を叩きました。 「コン、コン」 「ね、分ったでしょう? こっちのは、牛に足を踏まれても大丈夫な様に、鉄板が入っているのよ」
……ひえ〜っ! 買います、高い方!!
〜またネタがあったら、次回に続く〜 |
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