2009年1月21日 (水)
薪割りにおける人間考察。 7
〜前回からの続き〜 (前回から随分時間が空いてしまい、申し訳ありません。)
それからというものA太は、私の斧の音を聞き付けると、自分の薪割りセットをトラクターに乗せて現われ、一緒に作業をするようになりました。
そんなある日、私達がいつもの様に薪を割っていると、A太の母親が再び窓から顔を出しました。 「A太、寒いからジャケットを着なさい!」
他所の家の子供の事ですが、A太は私を手伝ってくれているわけですし、汗だくの子供にジャケットを着させるのはあまりに気の毒ですから、私はこの日、思い切って口を挟んでみました。
「あの、私、この格好(半袖Tシャツ一枚)で汗びっしょりなんです。A太はもっと重労働をしているから、多分あの格好(長袖のトレーナー)でも暑いぐらいだと思うんですけど。……A太、お母さんの所に行って、どのぐらい汗をかいているか、見せておいで」
トレーナーの下に手を入れて確認したA太の母親は、私の「作業が終り次第ジャケットを着せて、家にシャワーを浴びに帰らせる」という言葉に、A太のジャケットなしでの作業を許可し、「うちの子が邪魔をする様だったら、遠慮無く追い返して良いからね」とも言ってくれました。 そして、この日から彼女は、ほんのちょっとだけ、私と世間話をする様になりました。
さて、またそんなある日、今度はA太の父親が窓から顔を出しました。
「xxxxxxxx」 何やら早口で言う父親に、A太は声を上げます。 「何? 聞こえない!」 「xxxxxxxx」 「大丈夫!」
A太の父親が何を話しているのかは、私にも聞こえませんでしたが、挨拶ぐらいしておこうかと思った私は、薪を割る手を止めて、彼の方に向きました。 しかし、挨拶のタイミングを計ろうにも、A太の父親は、私の方を一切見ようとしません。
……「うちの息子、迷惑を掛けていませんか?」とか「いつもすいませんねぇ」とか、普通はこういう時、父親として何か言わないか? 最低でも、ご近所同士として「こんにちは」ぐらいは言うだろう?
「俺は、友達の様に気さくな父親だろう?」とでもいう風に、A太に話しかけている彼は、私の目には、何となく嘘臭く感じられました。 本当に気さくな人は、自分の息子のすぐ隣、2mとない距離に立っている側の女性にだって、気さくに話しかけますよね?
しかし、彼にとってA太は、滅多に会えない息子ですから、久しぶりに家に戻った時ぐらい、一緒に時間を過ごしたいのかも知れません。 「ひょっとして、私との薪割りがそれを邪魔しているのかな?」 私がそう思った次の瞬間、A太が、大きな声でぴしゃりと言い放ちました。
「僕はね、お父さんと無駄話をしている暇はないんだよ!」 びっくりして固まった父親と私をよそに、黙々と作業を再開するA太。
ええと、どうやら、何ヶ月ぶりに会う父親とイン・ドアで遊ぶより、隣のおかしな日本人とアウト・ドアで肉体労働をする方が、A太には意義がある様です。
……A太よ、私の知る限り君は、最強の幼稚園児だ。
(完) |
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