2009年2月3日 (火)  なすべき時? 2

                 〜前回からの続き〜

何度か書いていますが、私は、村でバレーボールをしています。

これは成人の男女混合チームで、各自の年齢も職業も様々なら、出席頻度も経験も運動能力も目的も……何もかもが様々です。
唯一の共通事項は、全員がこの山にある村の何処かに住んでいる、という事です。

私がこのチームに参加した時、少しでもバレーボールの経験があるのは、私以外には、スイス人女性I嬢とドイツ人女性のT嬢だけでした(チーム内での外国人は、このT嬢と私だけです)。

そして初日、私のプレーを見た二人は、練習後の女子更衣室で言いました。
「みんつが皆を指導してくれないかしら?」
これまではI嬢がその役割をしていたのですが、自分で店を経営している彼女は、あまり頻繁に出席出来ない上、指導の準備等をする時間が取り難いらしいのです。

「うーん、でも、私のやり方は日本式だろうし、何よりも新入りが大きな顔をして指図したんじゃ、皆、気分を害さないかしら?」
そう言う私に、更衣室にいた女性メンバーが皆、口を揃えます。
「新入りか古株かなんて関係ないし、私達はインター・ナショナルなプレーを目指すから」
「でも、私のやり方は、本当にスイスのとは違うかもよ」
「平気、平気。誰もバレーボール自体が分っていないんだから、どんなやり方でも問題ないわよ」

ということで、その後私は、何となくチームを引っ張って行く様な立場になり、幸運な事に、チームのトーナメントでの成績も上がり始めました。

まぁ、ゼロのチームに何かを教えれば、機嫌さえ損ねなければ、結果はプラスですから、この最初の進歩は、さほど難しい仕事ではないのです。
ただ、結果がすぐに見えた為、皆の私に対する信頼は、幾らか築けた様ではありました。

そんな風にして1年強、私は、(特に男性陣を)おだてたりすかしたりしながら、各自の長所を伸ばす方向でチームをまとめ――大人になってから始めるスポーツですから、不得手な部分の矯正は、楽しくないだけでなく限界があると思うので――そろそろ第2段階に入っても良いかな、というところまで来ていました。

そんなある日、R氏・J嬢夫妻が新たにメンバーとなりました。

R氏は、身長185cm強というところでしょうか、そのイルカの様にすらりとした体格は、如何にも普段からスポーツをしている、といった感じです。
トライアスロンとか水泳とか、そんな競技をしていたのではないかという雰囲気です。

J嬢は、身長170cm弱でしょうか、正統派美人といった顔付きの割には、本人はその事に気付いていない風で、大きな声で笑う気さくな女性の様です。
ただ、「悪気はないけど、ほんのちょっぴり場の空気が読めないかな?」という感じもしました。

二人とも40代半ばぐらいでしょうか、学校の先生をしていて、バレーボールの経験者である事は、練習を始めてすぐに分りました。

R氏は、アタックとブロックに問題のある我がチームにとって、「これで、やっとエースが出来た」と思わせる程で、元セッターであった私には、わくわくする存在になりそうです。

J嬢の方は、R氏のサポートに回るようなプレーが多く、私は少し気になりましたが、この日は初日ですから、見知らぬメンバーの中で自分の夫に頼りがちになる気持ちは、分らなくもありません。
今後チームに慣れて行けば、そこは経験者です、他のメンバーとの連携も自然に出来る様になるでしょう。

「貴方達が参加して嬉しいわ。これからも、また来るでしょう?」
練習が終り家路に向かう二人を、私は呼び止めて言いました。
というのも、試しに1回やってみて後は来ない、という人も結構いるからです。
「うん、これからも来るよ」
二人はそう答え、その後は、毎週参加する様になりました。

新たに二人の経験者を迎え、特に一人は、私が理論しか教える事の出来ない、アタック・ブロック部門を任せられる人物ですから、これで我がチームは「めでたし、めでたし」となる予定だったのですが……

                〜次回に続く〜

2009年2月6日 (金)  なすべき時? 3

               〜前回からの続き〜

新メンバー二人が来るまでの我がチームでは、2チームに分れて試合をする場合、私、I嬢、T嬢の三人が両チームの力具合を考えて、メンバーを配置していました。

経験者三人の内一人は、一試合毎に両チームを行き来するとか、背の高い男性ばかりが一緒にならない様にとか、誰の対角に誰を持って来るとチームが上手くまとまるかとか、同じ人達ばかりがいつも一緒にならない様にとか……参加者全員が、それぞれの能力にあわせて、同じ位の割合で楽しめる様にと、気を配っていました。
これは、一度も話し合った事はありませんが、三人が何となくそうして来た事です。

ところが、R氏とJ嬢は、毎回同じチームで隣同士の位置に着くのです。
R氏が自分の場所を決めて立つと、J嬢は、さっさと隣に行ってしまいます。

人見知りのせいかと思った私は、何度か「次は交代する?」と聞いてみましたが、J嬢の答えは決まって「ノー」です。
はい、どうやらJ嬢は、R氏の隣でプレーをしたいだけの様です。

そうなると、既に片方のチームに経験者が二人ですから、私は、反対のチームに入ります。
自分の練習の為というか、日本人的感覚というか、「こっちのチームがちょっぴり不利かな?」と思う方で、私はプレーする事にしているのです。

ここまでは、それでも問題はありません。
そりゃ、J嬢が柔軟にやってくれればより楽しくはなりますが、そこは趣味の範囲ですから、「夫と一緒に」が目的であっても、構わないのです。

ただ不思議なのは、一番上手であろうR氏がいるにも関わらず、また時には、R氏・J嬢チームが経験者三人であるにも関わらず、両チームが互角に戦える事でした。
否、場合によっては、経験者二人でも私のチームが勝つのです。

私は、毎回反対のチームに入っていましたから、R氏・J嬢チームがどういう戦法を取っているのか知りませんが、少しずつ参加者全員のプレーが変わり出した事には、嫌でも気付きました。

例えば、前回R氏・J嬢チームでプレーをした人が、今回は私と一緒のチームになり、突然、今までやって来たのとは全く違うプレーを始めたりするのです。

「何かやり難いな」とは思うものの、その人が何故そんな事をするのか、何処でそんなプレーを覚えて来たのか分りませんし、最初の内は些細な変化でしたから、果たしてその人が意識的にそうしているのか、たまたまそうなってしまった単なるミスなのか分らず、私は、指摘すべきかどうか迷っていました。

そんなある時、私は、ある男性が一人の女性に、トスについてアドヴァイスしているのを耳にしました。
「だからね、これはこう回転させて……」
……えっ、何言ってんの?! それはまずいよ。

「ちょっと待って! それは、間違っているわよ。あのね、私が知らないだけで、プロみたいに色々な攻撃が出来るなら、そういうやり方もあるのかも知れないけど、基礎はね、アタッカーが打ちやすい様に、トスは出来るだけボールの勢いや回転を殺してやるの。強い回転の付いたトスだと、アタッカーは、自分の打ちたい玉を打つ前に、トスの回転に対してコントロールをしなければいけなくなるから、難しいのよ」

そう説明した私に返って来たのは、こんな台詞でした。
「でも、R氏はそうしているよ」
「R氏が、そういうトスを上げろと教えているの?」
「そういうわけではないけど……」

「R氏が何故そんなトスを上げるのか、私には分らないけど、私達のレベルはまだ初心者よね。きちんと基礎から習った方が、良いと思わない? 貴方が個人的にそういうプレーをしたいというなら、私は反対しないけど、それは今のレベルでは間違ったプレーだから、他の人に教えるのは良くないわ」

この男性だけでなく、その後も度々、私の目にはおかしいと映るプレーをし始める人が、出て来ました。
そして、私が少し注意して観察していると、それは何故か男性のみなのです。

「これは一回、R氏のチームでプレーした方が良いな」
そう思った私は、ある日、自らこう言いました。
「R氏、今日は一緒のチームでやろう。今まで、まだ一回も調整してないから」

                  〜次回に続く〜

2009年2月10日 (火)  なすべき時? 4

                〜前回からの続き〜

R氏・J嬢チーム――この時もJ嬢は、反対のチームに行きませんでした――に入った私は、酷く戸惑いました。
二人のプレーがどう機能しているのか、私には全く理解出来ないのです。

大雑把に言ってしまえば、バレーボールというのは、レシーブ→トス→アタックをすれば良いわけで、特別な状況(ボールがおかしな所に飛んだ等)でなければ、初心者の場合は大抵、後衛の人達がレシーブをし、セッターがトスをし、前衛の人達がアタックを打ちます。

しかし、R氏とJ嬢は、自分達がどのポジションに居ようとも、二人のどちらかがレシーブをし、レシーブをしなかった方がトスをし、レシーブをした人が再びアタックを打つのです。

分りますか?
一つ例を上げるなら、二人が前衛だとします。

二人ともアタッカーの役割をするなり(この場合、残った4人の誰かがセッター)、セッターとアタッカーに別れるのが(この場合は、残った4人の内前衛にいる一人がアタッカー)、自然だと思います。

しかし二人は、後衛のレシーブ位置にまでさがります。
こうなると、ルール違反にならない様、後衛はもっと後ろにさがらなければいけません。
すると後衛の3人は、レシーブするには後ろ過ぎる位置に立つ事になりますから、その結果、丁度良い位置に立っている二人のどちらかがレシーブをし、もう一人がトスをし……という具合になるのです。

これは、ビーチ・バレーでしょう?
私達のしているのは6人制バレーボールですから、上のやり方では、4人が暇ですよね。

また、上の戦法を取らない場合、R氏・J嬢はそれが一球目・二球目であろうと――バレーボールは、皆さんもご存知の様に、三回触れます――直接相手コートに返球してしまいます。

私は、自分の頭越しにやり取りされるボールを見上げながら、「これじゃ、まるで阿呆だな」と感じましたし、他の人達もただ突っ立っています。

まぁ、これは極端に書きましたから、私や他のメンバーも何回かはボールに触りましたが、全体的な雰囲気として、R氏・J嬢のプレーが上記の様なものを基本としている為、他のメンバーは、二人のサポートに回るしかないという状態なのです。

もちろん、これがチーム内で話し合った結果、合意の戦法として取られているプレーだというなら、それはそれで各チームの特色ですから、私がとやかく言う必要はありません。
しかし、R氏・J嬢は、まるでそれが当たり前であるかの様に――実際私の知る限り、こんなプレーをするチームはありませんが――話し合い等一切なしに、こういうプレーを他に強要しているのです。

一試合が終った時、何もする事がないと感じた私は、ネットの下を潜りながらこう言いました。
「私はやっぱり、あっちのチームに行くわ。私には、貴方達の戦法が全く理解出来ないし、何だか邪魔している様で悪いから」

そんな私の台詞に二人は、さも意外だという様な驚きの声を上げてみせましたが、「それに関して話し合おう」という返事はありませんでした。

その日の練習後、女子更衣室でJ嬢が、誰にともなく言いました。
「今日の練習は、楽しかったわよね」
この言葉に同意する者がいなかった為か、J嬢、今度は私を見て言います。
「ね、楽しかったでしょう、みんつ?」

「このまま、うやむやにしてはいけない」
そう思った私は、J嬢のこの問いに、意を決しました。
「私、若い頃バレー部だったけど、今日ほど馬鹿げたプレーは、一度も見た事がないわ」
この返事にJ嬢は、大袈裟と思える程の声を出します。
「あら、何でそんなこと言うの?! 楽しかったじゃない」

私がもう一度、事をはっきり告げようと思った瞬間、T嬢が口を挟みます。
「私も、みんつの意見に賛成だわ」

何と、R氏・J嬢のプレーに疑問を抱いていたのは、私だけではなかったのです!

               〜次回に続く〜

2009年2月11日 (水)  なすべき時? 5

               〜前回からの続き〜

私の知っているバレーボールは、各自の能力に合わせてポジションを決め、その役割に従ったプレーをする、というものです。

我がチームは男女混合チームですし、人数も補欠を作れる余裕はありませんから、私は、「個人の能力にはっきりと差が出るまでは、大体で」と考え、こう配置していました。

長身の人(男性全員+女性二人)はアタッカー、小柄な女性は、その時々の事情でセッターかレシーバーをし――参加人数によっては、この中からも誰かがアタッカーに回ります――基本的にセッターは前衛真ん中、レシーバーは後衛真ん中でプレーをする。

ただ、バック・アタックが出来る人はまだ居ませんでしたし、プレー中のポジション移動にしても、少しずつ習っている最中でした。
やっと「レシープ→トス→前衛のオープン・アタック」のコンビネーションが、何とか出来る様になって来たかな、というレベルです。

ところが、R氏・J嬢が来てからは、このやり方も変わりました。
全員が全てのポジションをし、セッターは前衛右に位置する人が兼ねる、となったのです。

分りますか?
例えば、R氏が前衛右であるセッターのポジションになり、相手側のサーブとしましょう。

R氏は、まずレシーブの位置である“後衛”右まで移動し――この時、前衛右はがら空きになります――たまたま自分がレシーブをしなかったら、セッターの位置に走りトスを上げますし、自分がレシーブをしたら、誰か別の人(大抵はJ嬢)がセッターの役目をします。

私の知る限りでは、「相手チームのコンビネーションを崩す為、サーブはセッターを狙え」というのは、初歩の戦術です。
R氏・J嬢の「セッターが自らレシーブを買って出る」という作戦には、どんな勝算があるのでしょう?

実は、私がR氏・J嬢チームでプレーをした時、触る事が出来たボールの殆どは、身長185cmはあると思われる、チーム1番のアタッカーであるR氏が、セッターの位置に付いた時に、チームで最も背の低い、元セッターの私に打たせたアタックでした。

男女混合チーム用ネットの高さでは、どんなに頑張ってジャンプしても、私の手は、ネット上から2mmしか出ませんから、もちろんこのアタックはことごとく失敗に終りました。

私が、「こんな馬鹿げたプレーは、見た事がない」と言ったのは、そういう理由もあったのです。
エース・アタッカーがセッターにトスを上げるチームなんて、私は、見た事がありませんから。

更衣室で「貴方達の戦法はどういうものなのか?」と聞く私にJ嬢は、説明の代りに、こういう答えをくれました。
「私は、バレー部でプレーしていたのよ」

チームの作戦に正解・不正解はありません。
あるのはただ、そのチームにとってより良く機能するかどうか、だけです。
どんな突飛な作戦でも、それがルールに則っていて、チームが良い成績を上げられるなら、それで良いのです。

ですから私は、R氏・J嬢のやり方を変えたいわけではなく、何故そうなのか納得したいだけなのです。
戦術が理解出来ずには、どう動いたら良いのか判断出来ませんから。

私は、男子更衣室から出て来たR氏を捕まえて、こう言いました。
「R氏、今日のプレーなんだけど、私には良く理解出来なかったから、次の練習前に少し時間をくれないかしら? 貴方とJ嬢が、どういうコンビネーションで動いているのか、教えて欲しいのよ」

そんな私にR氏は、朗らかな顔で言いました。
「もちろん構わないよ。じゃ、来週の金曜日に、一緒に話をしよう」

ところが翌週、R氏は、姿を見せませんでした。

                  〜次回に続く〜

2009年2月16日 (月)  なすべき時? 6

               〜前回からの続き〜

私がおかしなプレーに困る。→R氏に説明を求める。→翌週R氏は練習に来ない。→その後は暫く、何もなかった様に元のプレーが続けられる。→再び私は困る。→説明を求めるとR氏は翌週休む。→……

この状態が何度か繰り返されて行く内に、チームの男性間で、おかしなプレーが定着してしまいました。

それは、まさにR氏がしているのと同じ、『全部俺のボール』的プレーで、小柄な女性達がボールの落下地点で、きちんと「ハイ」と言って構えているのにも関わらず、無言でそこに突進して行き、彼女達の頭の上のボールを取ってしまうのです。

しかもより悪い事に、R氏以外の男性達はバレーボール経験がないのですから、彼らがそうして邪魔したボールは、正確に次のプレーには繋がらない場合が多いのです。
また、邪魔をされた女性達は、恐怖を感じると共に、やる気をなくしてしまいます。

想像してみて下さい。

集中してボールを見上げていると、身長180cmを超えた大男が、後ろからぶつかって来るのですよ。
「俺は背が高いから、良く分らないけど」という男性は、こんな風に考えてみて下さい。
ある日突然、何にも考えていない時に、背後からチェ・ホンマン氏が体当たりして来ると。

ね、嫌でしょう?
否、気分がどうこうというより、危険でしょう?

という事で、ある女性は練習に来るのを止め、別の女性は、周りに男性が立つと「今日はアン・ラッキーな日」とでもいう風に、ボールを追うのを止めてしまいました。
この状態に異議を唱え続けたのは、たった一人、私だけです。

ええ、もちろん男性達は、そんな事ではプレーを変えません。
だって、チームで一番上手なR氏が、そういうプレーをするのですから、上手くなりたかったら見習いますよね。

この時期私の腕には、実際、痣だの擦り傷が出来ていました。
そうです、男性が突進して来ても退かない私は、結果的に怪我をするわけです。

この時点では、ちょっとした擦り傷だけですから笑っていられますが、「このままではまずい」と感じていた私は、状況を変える為に色々な手を打ってみました。

・本人に直接抗議する(場合によっては、尻を蹴ってやりました)。
・皆に話し合おうと提案する。
・本来あるべきプレーを説明する。
・R氏に「男性陣にきちんとしたプレーを教えてやってくれ」と頼む。……等々。
しかし残念ながら、どの解決策も実を結ばぬまま、時間が過ぎていました。

そんなある日、私達は近村で開かれるトーナメントに出る事になりました。

これは、毎年開かれるわざと夜中にやる試合なのですが(この辺の習慣らしいです)、R氏・J嬢がチームに加わってからの参加は、この時が初めてです。

私は、ちょっぴり期待しました。
というのも「R氏・J嬢は、練習はいい加減でも、対抗試合になったらきちんとやるだろう」と、思ったのです。

が、……

正直に言います。
私は甘かった。
まだまだナイーブな、夢見る子ちゃんだった。
何年スイスで暮らそうが、やはり私は性善説の国民、日本人だった。
……でも、そんな日本人で良かったけど。

それは、参加チーム中一番の強豪であるだろう所との対戦でした。

ある意味運が良かったのか、それとも悪かったのか、偶然にも私は、J嬢の右でR氏の前というポジションに着いていました。

                  〜次回に続く〜

2009年2月18日 (水)  なすべき時? 7

               〜前回からの続き〜

試合が始まってすぐ、それは始まりました。

球技ならどんなものでもそうでしょうが、バレーボールでも相手側のプレー中は、その動きに合わせてこちらも動きます。

未経験者でしたら、ボールが自分の目の前に来るまで、何となくその場に立ってプレーを見守っていたりすると思いますが、本来は――もちろん、チームによっても色々とあるでしょうが、初歩的な一例として――相手の球を予測しながら、三角形を描く様に動くのです。

簡単に言うと、相手側のレシーブで後ろにさがり、トスでその対角方向に横移動し、アタックに合わせて前に出る、といった具合です。

前衛真ん中に位置していた私は、一番小柄な事もあり、その立場に適したポジションを取っていました。
つまり、残りの二人がブロックに飛びますから、そのこぼれ球を拾える位置――ネットから3mの所に引いてある線(=アタック・ライン)付近――に構えていたのです。

私は、相手のレシーブに合わせて、アタック・ラインからほんの少し後ろまで下がり、トスで横移動し、アタックがブロックに掛るのか、そのまま後衛まで飛ぶのか、ネット際に落ちるのかを見極めて、次のプレー(こちら側の攻撃)に移り……と、動いていました。

これは、セッターの役割ですから――プロの場合は、セッターもブロックに飛びますが――元セッターの私としては、ある程度慣れた動きです。
(既に書いた様に、我がチームのセッターは前衛右の位置にいる人物が兼ねますが、守備に関しては、私が背が低くてブロックに飛べない為、この役割は、話し合って決めました。)

ところが、相手のレシーブに合わせて私が後ろに下がる度、R氏が私の背中を押すのです。
「もっと前に行け」と。

私の習った限りでは、相手側レシーブ時の後衛は、コートの外枠(ネットから9m)まで下がる筈ですから、私がアタック・ラインより1歩ぐらい後ろに行ったからといって、邪魔になるという事はありません。

しかも、相手がアタックをする時、私はそこより前に出るわけですから、この時点での立ち位置は、極端に言ってしまうなら、あまり重要ではありません。

ところが何故かR氏は、私が片足でもアタック・ラインより後ろに行くと、背中を押すのです。
……R氏の立ち位置が、前過ぎる? それとも、真ん中に突っ立っているだけで、相手に合わせた動きをしていない?

「何? どういうこと?」
そんな風に思いながらもプレーが続き、私達のサーブになった時です。
今度はJ嬢が、ネットの前で真ん中の位置に立ちます。

前衛の真ん中は私ですから、私は咄嗟に「J嬢は、ポジションが移動したと、勘違いしたのだ」と思いました。
6人制バレーボールでは、サーブ権が移動するとポジションも1つ動きますから、この間違いは、よくあるのです。

「J嬢、まだローテーションじゃないよ。貴方は左だよ」
そう笑う私に、J嬢は、真剣な顔で言います。
「それは分っているわ」

ルールの話ばかりでややこしいですが、実はこれ、2つの反則に引っ掛かります。
大雑把に言いますと……

一つ目は、アウト・オブ・ポジションの反則で、サーブ時に選手のポジションが入れ替わっていてはいけない、というものです。
ですからJ嬢は、私より右に行ってはいけません。

二つ目は、スクリーンの反則で、味方のサーブを故意に隠してはいけない、というものです。
J嬢が、必要以上に私に近寄る事で壁を作り、味方のサーブを隠してはいけません。

これは、どういう事でしょう?
J嬢は、一体何が目的なのでしょう?

                 〜次回に続く〜

2009年2月23日 (月)  なすべき時? 8

             〜前回からの続き〜

自分のポジションを分っていて、私に重なる様にして立つという事は、J嬢の目的がスクリーンだと取られても、私達チームは文句を言えません。

審判に気付かれない様にスクリーンをするチームは、実際プロでもありますので、J嬢のプレーが絶対に間違っているとは言えませんが、私個人の意見では、こういうプレーには反対です。

理由は簡単、「私達のチームがまだ基礎さえ出来ていないから」です。
こういう微妙なプレーは、ある程度の水準まできちんと出来る様になってからで良いと、私は考えます。

ですから私は、反則を取られない様に、少し右に移動しました。
実際、J嬢が目の前に立っているので、私からも相手チームが見えませんでしたし。

その後も、我がチームのサーブが行われるとJ嬢が目の前に立ち、ラリーが始まるとR氏に背中を押され、私は、だんだんプレーに集中出来なくなりました。
……この二人は、一体何をしたいの?! 他の人は、どうしているの? 私だけがちぐはぐなの?

そして、次のローテーション後、相手チームのサーブ時です。
私は前衛右、セッターの役割ですから、ネット際でチーム全体を見渡す様に、横を向いて構えていました。

またJ嬢です。
今度は彼女、前衛右の位置まで移動して、レシーブの体勢を取ります。

分りますでしょうか?
簡単に言うなら、ネットから順に私、J嬢、後衛右の選手が、一列に並んでいるのです。
やはりこれもアウト・オブ・ポジションの反則で、J嬢は、私より右に行ってはいけないのです。

今回は、私がより右に移動するには、少々問題があります。
何故なら私は、コートから出てしまいますから。

もちろん、ルール上選手がコートから出るのは、問題ありません。
アタッカーは、場合によっては助走を取る為に、わざとコート外で待機する事もありますし(この選手は、レシーブをしません)。
ただ、私は今セッターです。

レシーブがきちんと返らないチームのセッターが、コート外で構えていたらどうなりますか?
初心者チームですから、皆は、私の立っている場所を狙って、大雑把なレシーブを返すのですよ?
しかも、この体育館は狭く、コートと壁の距離が2mもないとしたら?

ですから私は、相手チームがサーブを打つ(=反則となる瞬間です)前に、急いでこう言いました。
「J嬢、20cmで良いから、真ん中に寄って」

20cm、半歩です。
こうすれば、ほんのちょっぴり私の方が右に位置しますし、レシーブがコート左に飛んでも、(良いトスは上がらないけれど)何とか追い付けます。

ところが、J嬢からは、驚く答えが返って来ました。
「みんつ、貴方が右に寄るのよ」

……否、否、否、だからそれは無理だって。絶対ボールが壁に当たる。大体、レシーブがコートの左外に飛んだら、誰が取るの? それじゃ、セッターなんか要らないじゃん。

「私、もうコートぎりぎりに立っているのよ。出来れば、もう少し真ん中に行きたいぐらいなんだから。たった20cmで良いのよ、真ん中に寄ってくれない? でないと反則になるわ」
「いいえ。みんつ、貴方が合わせるのよ」
「何故? セッターがこんな端っこに立っているなんて、おかしいわ。これじゃボールに追い付けないし。大体、貴方は何でそんな右に寄る必要があるの? 真ん中が、がら空きじゃない」

実はここにも、私が長い間疑問を投げかけていた、J嬢・R氏のやり方の穴があるのです。

             〜次回に続く〜
(何だか、長く引っ張るようで申し訳ありませんが、まだ続きます。)

2009年2月26日 (木)  晴れの日は・・・

皆様へ

続きものの日記の更新が、遅れがちで申し訳ありませんが、只今私、ちょっと忙しいのです。

というのも、ここアルプスは連日良い天気な上、夫B氏が休暇中でして……私は、毎日叩き起こされて、スキーに連れて行かれるのです。

明日は天気が崩れるとのことですので、更新が出来ると思いますので、続きを読みに来て下さる皆様、もうちょっとお待ち下さいね。

では、今日もゲレンデに行って来ます。

……まだ、眠いぃ〜。    みんつ

2009年2月28日 (土)  なすべき時? 9

            〜前回からの続き〜

ルールだの戦法だのと、退屈な話が多くて申し訳ありませんが、バレーボールをご存じない方には、ある程度の説明がないと内容が分りませんでしょうし、ご存知の方には、それを書いた方が、私の苛々具合が良く伝わると思いますので、もう少しお付き合い下さい。

各チームのレベル等によって色々と違いはあるでしょうが、私の知る限りで大雑把に言うと、バレーボールのサーブ・レシーブ時のフォーメーション(=選手の配置)には、『W型』と『L型』があります。

『W型』は、セッター以外の5人の選手が「W」の形に位置を取り――文字の各頂点部分に人が立ちます。――5人全員がレシーブをします。
これは、守備重視のフォーメーションで、各選手の役割分担がはっきりしていないチームやレシーブ力が不十分のチーム、つまり初心者に適しています。

それに比べ『L型』は、リベロ(=レシーバー)とその時後衛に位置しているアタッカー1名の“2人だけ”がレシーブを行い、その他の選手は、攻撃に備えた位置で待機します。
これは、コートのちょうど真ん中に穴が開く様な配置になりますから、リベロ選手の能力が高く攻撃重視のチーム、実業団やプロ等が取っているフォーメーションです。

我がチームはどうかといいますと、R氏・J嬢が前衛の時、2人は後衛位置にまで下がりますので、形としては自ずと『L型』になるのですが、攻撃用ポジションである筈の2人がレシーブも兼用する為、守備を重視するにはコート中央ががら空き、攻撃を重視するにはアタッカーの準備が出来ていない、という状況になっています。

まぁ、もっともっと簡単に言えば、初心者チームのコート中央ががら空きなのですから、相手のサーブは私達全員が見守る中――誰が取るべきか分らず、誰も手を出せないので――コートのど真ん中で床に落ちます。

何故、初心者チームなのに『W型』を取らないのか?
否、攻撃は最大の防御ですから、百歩譲って『L型』を取るとするなら、何故アタッカーがレシーブをするのか?

この質問も私は何度かしましたが、R氏・J嬢共に、答えはくれませんでした。
「ただ二人がそうするから、いつもそうなってしまう」という具合です。

さて、話は戻って試合中です。

「ほんの少し左に寄って欲しい」と言う私に、J嬢は、頑として応じません。
審判の笛が鳴り、サーブがいつ来てもおかしくない状況で、私は、ほんの一瞬考えました。
「試合中にもめるのは勝負にマイナスだし、他所のチームもたくさん見守っている中、みっともない」

しかし、その次の瞬間、こう思いました。
「で? それが何なの? J嬢にとって、衆人環視の中で恥をかくのは、多分、一番嫌なはず。となれば、今がチャンス!」

私はもう一度、今度は覚悟を決めて、J嬢を真正面から見て言いました。
「20cm左に寄って。こんな端っこからじゃ、プレーが出来ないわ」
そう、この瞬間私は、ファイティング・モードをオンにしたのです。

そんな事も知らずに、J嬢は続けます。
「みんつ、貴方が走ってボールを追い掛けるのよ」
「いいえ、J嬢、貴方が私の邪魔を止めるのよ」
「邪魔だなんて。みんつは、もっと柔軟なプレーをすべきだわ」
「あんたこそ、柔軟なプレーをするんだよ」

一球目のサーブが打たれ、レシーブからのボールが、私の背後に上がります。
はい、私の予想通り、コート枠を超え、体育館の壁ぎりぎりにです。

自慢をするわけではありませんが、正直に言うなら私、このぐらいのボールはさばけます。
しかし私の心は、既にファイティング・ポーズを取っていますから、くるりと後ろを向くと、そのボールをコートの真ん中辺り、天井に勢い良くぶつけてやりました。
「ほら見ろ。こんな位置にいるから、こんな所にレシーブが飛ぶんだよ」と言いながら。

もちろん相手チームに一点取られますが、そんな事はもう、私の知った事じゃありません。
今を逃したら、このおかしな状況をはっきりとさせるチャンスは、二度と来なくなるでしょうから。

問題があるのにない振りをして、今までずっと黙り込んでいた人達、R氏の真似をしてチーム・メートを邪魔していた人達、皆同罪です。
嘘を明るみに出す時が来たのです。
可哀想ですが、自らその役を買って出た阿呆者には、しっかりその役をこなしてもらいます。

誰から見ても明らかな、私達の言い争いが続く中、二球目のサーブが打たれました。

                〜次回に続く〜

3月の日記へ