2009年3月2日 (月)  なすべき時? 10

               〜前回からの続き〜

今度のレシーブは、まるで私の決意を応援するかの様にコートの真ん中、そう、J嬢の立っているべき場所へ、綺麗に上がりました。

本来ならレシーブの次はトスですから、現在セッターのポジションについている私が、走って取りに行くのですが、もちろん今回の私は、そんな事はしません。

だって私、そこまで走るには、いささか遠い位置に立たされていますものね。
それに、我がチームはいつだってR氏・J嬢の「全部俺のボール」的プレーをしているのですから、今回だって2人のどちらかが、多分本来ならその位置にいる筈のJ嬢が、取れば良いのです。

しかしボールは、私を含めたチーム全員が見守る中、コートのど真ん中に落ちました。
試合終了、私達の負けです。

この時私は、ある事に気付きました。
R氏・J嬢のおかしなやり方が通ってしまうのは、今までそれでも何とかチームをまとめようとしていた私が、辻褄の合わない部分を補っていたからではないでしょうか?
私が2人に従わないと決めた途端、我がチームはいとも簡単に機能しなくなったのです。

私が辻褄を合わせている限り、この不愉快な状態は変わらない。
日本人的な調和だの思いやりだの尊重だの何だのは、たとえそれが価値のあるものだとしても、相手が同じ価値観を持っていない限り、私の勝手な自己満足に過ぎないのだ。

控え室への階段を上る私に、T嬢が話しかけて来ました。
「みんつ、本気で怒っているんじゃないわよね? その、いつも貴方は穏やかだから、本気で怒ったら、もっと違うんじゃないかと思うんだけど」
この問いに、思わず私は声を出して笑いました。

「T嬢、鋭い! これは計算済みの怒った振りよ。こういう状況で私に噛み付かれたら、R氏もJ嬢もこれ以上誤魔化し切れないでしょう? トーナメントを台無しにして悪いんだけど、今を逃したら私達の問題は、また何もなかったかの様に過ぎてしまうと思うの。折角のチャンスだから、もうちょっと事を荒立てて、何処まで行けるか試してみようと思うんだけど、良いかしら?」

今度はT嬢が笑います。
「ええ、好きなだけやっちゃって。みんつのやり方、気に入ったわ」

一旦トイレに寄って気合いを入れた私は、他チームの試合を観ている皆の所へ真っ直ぐ行くと、R氏に正面から切り出しました。

「私は日本人だから、スイス人とは違うかも知れないけど、はっきり言わせてもらうわ。私も若い頃にバレーをしていたから、ある程度の事は分っているつもりだけど、貴方のプレーは全く理解が出来ないの。だから私は、今まで何度も説明を求めたわよね。でも、貴方は一度も話し合いをしようとしなかったわ。私に貴方の好きな様に動いて欲しいなら、きちんと戦法を説明して。そうでないと、どう動けば良いのか判断出来ないから。その説明がない限り、今後貴方の都合に合わせたプレーは、一切しないわ。それと、プレー中に背中を押されるのは、まっぴらだわ」

これに対するR氏の返事は、こうです。
「分った。今後は、みんつの良い様にするよ」

この答えは、不正解です。
チーム・プレーというのは、誰かの好きに皆が合わせるのではありませんものね。
どのやり方がチームにとって一番良いのか、それを話し合うのが正解ですよね。
でも、この時の私は、「とりあえずはこれで良し」にしました。
R氏が「俺様プレー」を止めてくれるだけでも、現状では収穫ですから。

次の犠牲者は、R氏の後ろに立っていた男性です。
彼はR氏の真似をして、いつも小柄な女性のプレーを邪魔していました。
……こいつもいっちょ、ついでに締めておくか。

私は彼の名を呼ぶと、人差し指を突き付けて言いました。
「貴方はいつも女性達の邪魔をしているけど、私に言わせれば最低のプレーね。そんなプレーは、2度と見たくない!」
私の剣幕に、彼はしゅんとなり、もぞもぞとその場を離れます。
……ふん、どいつもこいつも根性無しじゃないか。

もちろん次は、J嬢の番です。
すぐ隣で、背中を向けて試合観戦をしている彼女に、私はきっぱりとした声を出しました。
 
              〜次回に続く〜

2009年3月4日 (水)  なすべき時? 11

                〜前回からの続き〜

「J嬢、言いたい事があるの」

振り向いたJ嬢の表情は、「あらみんつ、元気? 何の用かしら?」とでもいう風ですが、そんな芝居はもう受け付けません。
私は、誤解の生まれる余地がない様、そこからJ嬢が、話を自分に都合の良い方向に進める事が出来ない様、端的な表現を選びました。

「私、貴方のやり方が気に入らないのよ。これ以上貴方に合わせるのはご免だから、今後は貴方がプレーを変えてちょうだい。そうでないなら私、貴方とは一緒にプレー出来ないわ」

J嬢は途中で何度も口を挟み、話を逸らそうとしましたが、私は、彼女の言葉を遮って、はっきりと言いました。
「私、貴方と議論する気はないわ。宣告をしているのよ。今度は、貴方が合わせる番だって」

それでもJ嬢は、何とか私を言いくるめようと試みます。
「みんつ、私の話も聞いて。あのね」

ふふふ、これは私の得意分野です。
喧嘩というのは、大抵、「より切れている方」の勝ちなのです。
そして、相手にジャブすら打たせずに試合を運べる選手は、KO勝ちも出来るのです。
また、相手の力を正確に読めない奴は、大きな痛手を負うのです。

私はもう一度、ぴしゃりと最後通告を出しました。
「いいえ、貴方の話を聞くつもりは、一切ないわ。何故なら、貴方が私の状況を理解する気がないから。これは、話し合いじゃないの。貴方が態度を変えないなら、私は貴方と同じチームでプレーをしない、って言っているの。今後貴方がどうするかは、貴方の選択よ。ただ、私と一緒にプレーをしたいなら、態度を変えてちょうだい」

すると、言葉に窮しているJ嬢の横で、別の男性が口を挟みました。
スイス人というのは、「口喧嘩=嫌われた」と感じる様で、口論の雰囲気すら苦痛に感じる人が多いのですが、多分、この男性もただ単に場を和ませ様として、口を挟んだのだと思います。
「俺たちは皆、ただ単に楽しくやっているだけだから、そういう細かい事は良いんじゃないかな?」

ええ、私も彼に同意見です。
それが、皆に等しく居心地の良いものなら。
「私の我慢の上に成り立っているあんたの楽しみ」でないのなら。

そう、この男性も、前述の男性程ではありませんが、やはり小柄な女性を邪魔しているのです。
そして今日は、「新装開店に向け、在庫品一斉セール」の日ですから、私としては、この余計な口出しに、内心大喜びです。
向こうから「俺も余ってる」とやって来た様なものですものね。

私は彼に向き合うと、今度は、子供に言い聞かせるように言いました。
「そうよね、私達は皆、楽しくやりたいだけよね。だったら、私も楽しくやって良い筈よね? 貴方達は楽しくやっているのに、私だけ我慢しなくちゃいけないというのは、おかしいわよね? 全員が好き勝手にやるか、全員が少しずつ譲歩し合うか、どちらかよね? 私は今、その話をしているんだけど、貴方はどう思うのかしら?」

これに対して彼は、ばつが悪そうに小さな声で答えます。
「それは、みんつが正しいと思う。みんつだって、楽しくして良いと思うけど」
「じゃ、誰かのやり方のせいで私がずっと我慢をしているとしたら、その人は、やり方を変えるべきだと思わない?」
「まぁ、それはそうだけど」
……はい、カット! OKです。

私はここで、皆に聞こえる様に明るい声を出すと、話を打ち切りました。
「じゃ、今後は皆、お互いに少しずつ譲歩し合って、全員が楽しくやれる様に心がけるって事で、決まりね!」

さて、残る試合はもう一つだけ、最後の試合です。

               〜次回に続く〜

(勿体付けている訳ではないのですが、文字数制限の都合で、もう少し続きます。お楽しみに。)

2009年3月9日 (月)  なすべき時? 12

               〜前回からの続き〜

最後の試合、コートに向かいながら私は、皆の前で言いました。
「R氏、J嬢、チームの戦法について今は話し合う時間がないから、とりあえずこうしましょう。R氏は、私の真後ろのポジションにはつかない。J嬢は、私の隣には立たない。後は皆、お互いに気を配りながら楽しみましょう!」

多分私に噛み付かれた人達は、幾らかしゅんとしていたかも知れませんが、この最後の試合で私達は、不思議と難なく勝ちました。
結果は(10チーム中?)総合4位です。

トーナメントが全て終り、私が女子更衣室で着替えていると、チーム・メートが2人入って来ました。
この2人は、私同様、男性達にいつも邪魔をされている小柄な女性です。
私は一応、彼女達にも事情を説明しておく事にしました。

「ごめんね、雰囲気を悪くして。でも、今回を逃したらもうチャンスは来ないと思ったから。私、本気で怒っているわけでも、あの2人を追い出したいわけでもないの。寧ろ2人は上手なんだから、きちんとチームを引っ張って行って欲しいと思っているぐらい。でも今までのやり方はもう嫌だし、ちょっと騒いで何とかなるか、見てみようと思うの」

そんな私に2人は、笑って「ええ、どうぞ。どこまで変えられるか試してみて」と言ってくれました。

この晩はもう時間もありませんでしたので、チームの問題については「今後の練習で、その都度話し合う」という事になりました。

帰りの車中、私を送ってくれたT嬢が言います。
「実は私、いつも家で夫に『R氏とJ嬢が来なければ良いのに』って愚痴ってたのよ。あの2人が来てからみんな滅茶苦茶だし、R氏と同じチームだと、どうせ彼が全部のボールを取るから、やる気しないのよね」

「やっぱりそう?! あの2人のプレー、変よね? 場合によっては反則を取られかねない事するし、戦法も矛盾があるし。同じスイス人でも、I嬢とは全く問題がないの。貴方のプレーも私と同じだし。私、スイス式のバレーボールを知らないから、どうしようかずっと迷っていたのよね」
「あぁ、あの人達のは、学校の体育でちょこっと習う時のやり方よ。戦法も何もないわ」

「体育の授業! だから、身長も適正もなく、全員が全部のポジションを回るってわけだ。プロなんか見てても、あんなプレーは誰もしないから変だと思ってたのよ。まだ暫く、居心地が悪くなるかも知れないけど、もう少しもめてみるわ」
「ええ、やれるだけやって。大袈裟にしないと、J嬢はまた何もなかった振りをするから」
「スイス人て、絶対そうよね!」

T嬢と大笑いしながら私は、R氏・J嬢に疑問を抱いていたのが自分だけでないと分かり、この晩、やっと安心しました。

さてその後。

本当は素敵な結果報告をしたいのですが、残念ながら、保守的なスイス人が相手では、事はそう簡単には進みません。

幾つか変化を挙げるなら、この晩以降R氏とJ嬢は、私の顔色を窺う様になりました。
一応「xxしようと思うけど、どう?」と聞いてくれます。
そう、勝手に好きな事をするのは、(私が怒るから)控えている様です。
まぁ、2人の提案は、まだおかしな作戦ではありますが。

小柄な女性を邪魔していた男性達の内、
G氏は、「俺様プレー」ではなく、夢中になるとどんどん前に出てしまうだけだという事が分かり、一緒のチームでプレーをする時には、私のコントロール下――私が隣に立ち、出来るだけたくさん、アタックを打たせる様にしています。――にあります。

C氏は、その後一度、初心者女性だけのチームと合同練習をした際、自分のプレーが女性を怖がらせると分った様で、今のところ気を配ってくれています。
D氏は、上記の合同練習後、最初の2回ぐらい気遣いを見せましたが、少しずつまた元に戻ってしまっています。

私は……
次の金曜日、知人から借りたルールブックを持参し――口で言っても聞かないので――「サーブの時、前衛が後衛より後ろに立ってはいけない」という辺りから、ルール説明でもすっかな。

                   〜完〜

2009年3月11日 (水)  2009年度『ミスター・スイス』コンテスト!

実は私、今日は皆様(特に女性の皆様)にお詫びをしなければなりません。

私のサイトで2月といえば、そう、例の季節です。
NHKのスタッフ会議で「奴らは皆、脱ぎ過ぎている」という理由により、ボツ企画になったあれです。

しか〜し、今年の私は、不覚にも雑誌を買い忘れてしまいました。
気付いた時には、既に時遅し。

ということで、大変申し訳ないのですが、とりあえずはこちら(↓)で我慢して下さい。
今後、バック・ナンバーが手に入るなり、新たな中間報告が出た際には、きっちりとアップしますので。

では、スーツ着用の『2009年度、ミスター・スイス候補者達』をご覧下さい。

http://www.misterschweiz.ch/index.php?option=com_wrapper&Itemid=266

(お手数ですが、アドレスをコピーして、リンク先にジャンプして下さい。)

尚、写真をクリックすると、各自のプロフィール&小インタビューが出ますので、「おぃ、みんつ、何が書いてあるか分らん。xxの所を翻訳しろ」という方は、遠慮なくおっしゃって下さい。

では、スイスの自称?美男子を、お楽しみ下さい。

2009年3月13日 (金)〜  日記未更新の理由。

今季の冬は雪に恵まれました。
そして今日は良い天気。

ふふふ、ってぇことはぁ……



……そ、みんつは只今、ゲレンデにいま〜す。

2009年3月16日 (月)  定額給付金

基本的に私は、政治と宗教の話はしない事にしています。

理由は2つ。
一つは、私の知識が乏し過ぎるからです。
大学等で学んだ事もなければ、個人的に興味を持って深く文献を読んだ、なんて事も私にはありませんので、テレビのニュースで知る程度の会話しか出来ませんから。

もう一つは、これは個人の価値観、信念といったものに強く左右されると思うからです。
神の存在とかある政策の有効性は、それを信じる人と信じない人とでは、分かち合えない感情的なものがある様に思うのです。

が……
今日はね、ちょっと気になった事がありまして、政治の話なぞを書いてみようかと思います。

もちろん、政策内容についての是非、等という様な難しい話ではありません。
「自分が海外に住んでいなかったら、多分、気付かなかっただろうな」と思う事がありましたので、「そういう話題も書いてみようかな」と考えたのです。
ですから、「ふぅん、それってどうなのよ?」程度でお読み下さい。

では、タイトル通り、定額給付金の話です。

これが良い政策かどうかは別として、皆さんはこのお金、どうしますか?
一万二千円だと、回っていないお寿司を一回食べられるぐらい?
お子さんのいる家庭では、日用品や学校関連品購入の足し、ってところでしょうか?

私はそんなニュースを見ていて、「自分だったらどうするかな?」と思ったのです。

金額的にも、わざわざスイスに送ってもらう程ではないですし、手続き代等で大分減ってしまうかも知れませんので、「何処かに寄附でもしようかな」とか「送料を自分で足して、ネットで本でも買うかな」とか「誰かに上げたらまずいのかな?」と、特に意味もなく、つらつらと考えを巡らせていました。

そして、ふと、思ったのです。
「海外在住者にも支給されるのかしら?」と。

で、インター・ネットで検索をすると、やはりといいますか、「海外在住者は、定額給付金の対象外」でした。
まぁ、そんなもんでしょう。
と、普通ならここで終るのですが、そこに書いてある内容に、私は少し疑問を持ったのです。

というのも、総務省のサイトにはこうあるのです。
対象者は、「住民基本台帳に記録されている者」と「外国人登録票に登録されている者」。
外国人が貰えるのに、日本国民である海外在住者が貰えないのは、何故でしょう?
確か、私がニュース等で見た限りでは、麻生総理は「全国民が対象」とか「国民一人あたり」と発言していた筈です。

海外在住だと、日本の経済に貢献出来ないから?

否、否、これだけインター・ネットの発達している現在、外国から日本で買い物なんていうのは、誰でも出来ます。
寧ろ、海外に住んでいるからこそ、「一万二千円ぐらいのお金なら、送ってもらって両替なんて面倒な事はせず、そのまま日本で使ってしまった方が」と、考えます。
現に私だって、「不足分は自分で足して、インター・ネットを使って日本で何か買おうか」と思ったのですから。

海外在住だと、連絡が付かないから?

これも否です。
海外の日本国民は、「現地大使館等に居住届けを出す」という義務がありますから、日本の役所からの連絡は付きます。

私は、日本国が許可を出さないので、スイスの国籍は与えられません。
ですから、スイス人と同じ権利は、当然与えられません。
そして、海外に住んでいるから、日本人としての権利も与えられない様です。

というわけで私は、総務省にメールを送りました。
「同じ日本国民なのに、海外在住者の権利を蔑ろにしても良いと考える理由は何ですか?」
ちなみに一週間以上経ちますが、まだ返事はありません。

こういうの、皆さんはどう思います?

2009年3月18日 (水)  お前のものは、俺のもの。

たまには、夫B氏の事でも書きますか。
いえね、ホント申し訳ないんですけど、うち、いまだにラブラブなんですわ。
ですから、惚気ている様に思われそうで、なんか、書き難かったりするんですわ。

てな、前振りをして置いて……

以前にもちらっと書いた事がありますが、我が家には就寝時の決まりというか、ずっとそうなっている習慣の様なものがありまして、それは、「毎晩一緒にベッドに入る」です。

200%夜型の私にとって――私一人だと、夜中中ごそごそやっていて、気付くと窓の外が明るい、なんて事がざらです。――この習慣は結構大変なのですが、そこは専業主婦の身、大切な旦那様が毎日きっちり働いて、私のお気楽極楽生活を維持してくれるよう、朝型のB氏の睡眠時間に合わせて、私もベッドに入るのです。

ここで、「え、別に、一人ずつで寝れば良いんじゃ?」と思った方もいますでしょうが、実はB氏、寝る時にテディ・ベアが要るタイプなんです。
そして、簡単に言うならば、立派な成人男子となった今、B氏のテディ・ベアには『みんつ』という名前が付いている、という事です。

ね、こんな事を書くと、惚気ていると思われちゃうでしょう?
でもね、私達は15年近くも一緒に暮らしていますからね、そんなに甘い雰囲気じゃぁ、ないわけです。

毎晩11時頃になると、歯ブラシを持ったB氏が現われ、「さぁ、みんつ、寝る時間だから歯を磨いて」と言われ、ベッドに入った途端、腕枕という名の羽交い締めをされ、身動きも出来ぬまま私は、長時間暗闇の中で大音響の鼾を聞かされるのですから。

さて、先日もそんな風にして、私は暗闇の中でじっとしていました。
「うーん、肩が痛い。ちょっと動きたい」

というのも、B氏は腕枕の肘から先を折り返し、掌で私の肩甲骨を押えているのです。
横向きに寝た状態の私は、顔は上を向いているけれど、肩は下を向いているという、ひどく不自然な格好です。

ですから私は、仰向きになりたくて、そろ〜っと身体を動かしました。

いえ、いえ、B氏が起きるからではありません。
B氏は一旦眠ったら、例えば家が焼けたとしても、朝になるまで起きたりはしません。

私がそろ〜っと動くのは、動いていることが体感されると、B氏の腕や手は、反射的にぎゅっと力を強めるからです。
「おい、こら、じっとしていろ。眠れないじゃないか」とでもいう様に。
そして、場合によってはそれプラス脚が、お腹の辺りに乗ってきます。
こうなるともう、重い、重い。
睡眠が永眠に成りかねないのではないか、という気にすらなります。

私がゆ〜っくりと向きを変え、もう少しで仰向け成功という時、B氏の小さな笑い声が、耳元で聞こえました。
「ふふふふ」
……しまった、気付かれたか?

と、次の瞬間、B氏は腕枕にしていた腕を動かし……
ポリ、ポリ、ポリ。

「へ? 何してんの?」
「痒いから掻いてる」
「痒いって、どこが?」
「ここ」
そう言ってB氏は、再び同じ場所を掻き始めます。

「ええと、貴方の脇腹が痒いと、貴方はそこを掻くの?」
「そう」
……こいつ、完全に寝ぼけてる。

だってね、B氏がポリポリと掻いていた脇腹は、“私の”脇腹なんです!

……夫婦は一心同体ってか?

2009年3月24日 (火)  分相応が大事。

以前にも書いていますが、現在私が住んでいる部屋は、一軒家の3階部分を賃貸用に改築した物件です。

この家は築約300年ですので、所々改築してあるとはいえ――例えば浴室は、賃貸するにあたって付け足したものですし、一部の天井は、多分100年位前のものです。――私の部屋も基本的には、築300年なわけです。

で、それがどんな具合かといいますと……

まず、所々に隙間が空いています。
我が家は、水回りの空間を覗いて、床も壁も天井も全て木(板)なのですが、当然ものすごく古い木ですから、それ自体に裂け目が入っていますし、2枚の継ぎ目は、既にぴったりとは合わさっていません。

次に、色々なものがぎりぎりです。
シャワーは、2人の人間が普通に浴びると、2番目の人は、最後の方でお湯がぎりぎりですし、電気は、例えば洗濯機を回す時には、暖房器具の電源を一つ切らないと、ブレーカーが落ちます。

そして、これは何度も書いていますが、冬は、日々の生活に手間が掛ります。
一日の始めにするのは、溜った灰を捨てて新しい薪を焚く事ですし、最後にするのは、夜中に水道管が氷結しない様、蛇口から水をぽたりぽたりと垂らす事です。

そんな我が家ですが、何と、台所はほぼ最新式(賃貸契約当時)なのです。

というのは、前にこの部屋を借りていた人が、台所機器の取り付け会社で働いていて、社割りで製品が安く買える為、自分達家族が住むにあたって、全てを最新式の器具に取り替えたのです。

ですから、我が家の台所には、薪を焚いて使う調理器具と並んで、チャイルド・ロックの付いた電気調理台や多機能のオーブン、食器洗浄機があります。
ちなみにスイスでは、ガスは殆どなく、電気の調理台が一般的です。

ところがそんな最新器具が、冬の間の我が家では、悩みの種なのです。

想像してみて下さい。
外は1mの雪の日、床や天井に隙間がたくさんあって、電力が足りない為、暖房は最低限しか出来ない家の中は、どんな具合でしょう?
ハイ、簡単ですね、寒いです。
しかも台所は、水回りですから、床がタイルです。
ええ、そう、もっと寒いです。

実際我が家の台所は、冷蔵庫の中よりも温度が低いので、お菓子のレシピ等にある「バターは予め室温にしておく」は、非常に悩みます。

そして、そんな部屋に、繊細な機能を持った調理台があります。

温度(火加減)を調節するハンドルは、横に1〜9の数字がデジタルで現われるのですが、例えば、低温でゆっくりと火を通したいと思ったとして、「1」が最低温「9」が最高温ですから、私はハンドルを「5」辺りに合わせて鍋を掛けたまま、台所を離れるとします。

暫く経ち、「そろそろ良いかな?」と鍋を見に行くと……
台所が寒すぎてセンサーが感知しなかったのか、鍋には全く何の変化も起こっていなかったりします。

で、今度は一旦「9」まで温度を上げ、沸騰したのを見てから「3」辺りまで温度を下げ、やりかけの家事等に戻ります。
と、2分と経たない内に鍋は噴きこぼれ、調理台は酷い有様。
そう、やはりセンサーが利かなかったのか、数字は「3」なのに機能は「9」のままなのです。

厄介なのは、これがいつも同じではない事です。
ちゃんと機能する日もあれば、そうでない日もあるのです。

「じゃ、何で鍋の側でずっと見ていないの?」と思った方、我が家の台所は、冷蔵庫内より寒いのですよ。
そんな場所で、ずっと立っていたいですか?

というわけで、昨日の朝、私が起きて最初にしたのは、薪を焚く事。
次にしたのは、黒こげの鍋を金ダワシで擦る事でした。

……こんな日は、一日なんもやる気しねぇ〜っ!

2009年3月26日 (木)  初めてのプレゼント

少し前から近所の老酪農家夫婦が、新しい子犬(小型犬)を飼い始めました。

私は犬に関して知識がないのですが、この辺の酪農家の傾向や犬の気質を考えると、この子犬は、小型獣用の狩猟犬ではないかと思うのです。
インター・ネットで検索したところ『ジャック・ラッセル・テリア』の毛が短い種類(鼻の先まで全部短いやつ)が、似ている様に思います。

既に何度か書いていますが、この辺の人達は、大抵犬だの猫だのを飼っていて、全て放し飼いです。

都会から来た人の中には、大型の牧羊犬が徘徊している事を怖がる人もいますが、私の知る限りでは、皆きちんと躾られていますし、吠えて寄って来るのは「撫でてくれ」という合図です。

そして私は、時間さえあれば道端に座り込んで、犬の方から「もういい」と去って行くまで、ブラッシングだの撫でたりだのとしてやりますので、あちこちの犬が寄って来ます。
この子犬も、私が外に出ていると匂いで分るのでしょう、一直線に飛んで来て、腹を出して寝転がります。

この犬は、まだ躾中ですし車の心配もありますから、本当なら飼い主のお婆ちゃんは、綱を付けて静かにさせたい様なのですが、そこはまだ子犬、遊びたい盛りです、ちょっとした隙を見付けては脱走し、私の元に来てしまいます。

ただこの子犬も、ある程度満足すると自分から家に戻りますので、お婆ちゃんは苦笑しながらも、私の所に来る事を容認している様です。

さて、そんなある日、私が外で薪割りをしていると、この子犬がやって来ました。
いつもの様に、尻尾をぶんぶん振りながら、真っ直ぐに走って来ます。

「おぉ〜、また逃げたの? 撫でてやるから、気が済んだら家に戻るんだよ」
ころりと仰向けになって、全身をくねくね振っている子犬に屈み込んで、私は腹を撫で始めました。

暫くの間子犬は、私の膝に乗ってみたり、地面に寝転がったりと、忙しく喜びを表現していましたが、その内気が済んだのか、自分の家の方へ走って行きました。
これは全くいつもの通りですから、私は何も気に掛けず、再びやりかけの作業に戻りました。

30分ぐらい経った頃でしょうか、作業の手を止めた私の目に、ふと何かが入りました。
黒くて細長い、「テレビのリモコンより、一回り大きいかな?」といったものが、我が家の玄関前の芝生に、丁寧に置かれているのです。

横には薪が積んでありますから、最初は私、木の皮が剥がれ落ちたのかと思いました。
しかし、木の皮にしては色が真っ黒です。
次に思ったのは、手袋です。
気付かずに、薪割り用の手袋を落としたのかと。
それでしたら、汚れで遠くからは黒く見えない事もないかな、と。
しかし、手袋にしては、その物体には厚みがあります。

「そうだ、薪割り用の楔だ!」
これなら長さも厚みも、色もぴったりです。
私は楔をずっと使っていませんでしたから、多分夫B氏が、前回に薪を割った後、落としたのでしょう。

「全くB氏は、ちゃんと見ろよなぁ。錆びちゃってるかも」
独りごちながら、その楔を拾いに近寄った私は、一瞬、驚いて立ち止まりました。

というのも、何と、その黒い物体は楔ではなく、鳥の死骸だったのです!
カラスに良く似たくちばしの黄色い鳥が、翼を綺麗に畳まれて、うつ伏せに置かれているのです。

「あぁ、これはきっとプレゼントだ」
今までにも私は、猫達からたくさんプレゼントをもらっていますから、ぴんと来ました。
でも、猫からのプレゼントにしては、この鳥は大き過ぎます。
そう、多分、あの子犬です。
やっぱりあの子犬は、鴨狩りなんかに役立つ種類なのでしょう。

と、その時、ものすごい勢いで例の子犬が、向かいの道路を走って行きました。
慌てて見に行った私の目には、もっと驚く光景が。

……ひぃ〜っ、やめて〜っ、うちの猫を追い掛けるのは!
そのプレゼントは、いやぁ〜っ!!

2009年3月30日 (月)  分らん。

我が家の駐車場は、道路から無造作に張り出した空間で、村に入ってすぐの所にあります。

この辺りの村には、大抵車数台が止められる公共駐車場(無料)がありますので、他所から来た人等は間違えてしまうのでしょうか、一応『私用』という札は貼ってあるのですが、我が家の駐車場に止める人がいます。

引っ越してきた当初は、そんな車にメモを挟んでみたり、帰ってきた時を見計らって注意をしたりとしていたのですが、それでも勝手に車を止める人は後を絶たず、最近では、我が家の駐車に支障が出ない限り、放ってあります。

まぁ、車2台分の空間がありますので、1台ぐらい他所の車が止まっていても、困るというわけではありませんし、「誰がそこの代金を払っていると思ってんだ!」といった様な考えは、捨てる事にしたのです。

ただ、そうはいっても、私が全く何も感じないわけではありません。
例えば、そこが我が家の駐車場であると知っている人達が、止める場合です。

だって、村の公共駐車場は、我が家の駐車場からほんの10m先なだけなのです。
そして彼らは、その事を知っているのです。
それだけじゃありません、彼らは、私がすぐ側で庭仕事等をしていても、何も聞かずに止めるのです。

何で? ほんの一言、「ちょっと止めて良い?」と聞く事が、そんなに大変でしょうか?
否、そもそも、他人がやって来て、勝手に自分の家の駐車場に車を止めて行ったら、誰だって不快に思いますよね?
人によっては、レッカー車を呼びますよね?
それが屋根付きのガレージだろうが、青空駐車だろうが、そんな事は関係ありません。
そういうのが煩わしいなら、10m先に止めれば良いだけなのですから。

さて、先週の事です。

実は去年の夏から、我が家の駐車場の半分には、輪切りにした丸太が積み上げられていて、今でも天気が良いと私は、少しずつそこで薪を割っているのです。

つまり、我が家の駐車場には、現在車1台分の空間しかないという事です。
ですから、私が薪割りをする時は、我が家の車を村の駐車場に移動させてから、という具合になります。

で、ある日、私が薪割りをしていると、1台の車がやって来ました。
大きなファミリー・ワゴンといった感じの車が、ゆっくりと私に向かって来ましたので、「道でも聞きたいのだろう」と思った私は、斧を振り上げる手を止めました。

すると、車を運転している初老の男性は、そのまま私の後方、我が家の駐車場内に車を入れ――その為に私は、動いて場所を開けてやらなければなりませんでした。――ドアを開けると、こう言いました。
「5分か10分だけなんだけど、ここに止めても良いかな?」

え? ええっ???
貴方が車を止めたいから、私に薪割りをやめろと?
駐車していた自分の車をわざわざ移動させて、薪を割っているのに、そこに止めさせろと?
今は、動いていた最中だから大丈夫だけど、周りは雪だらけで寒いのに?
私がTシャツ1枚なの、見えますよね? 10分間もここで貴方を待っていたら、私は確実に風邪をひきますよ?

そんな戸惑いを勘違いしたのか、男性は、続けてこう言いました。
「xxさんをちょっと訪ねるだけなんだ」

xxさんとは、私の下の階に住んでいるお婆ちゃんで、彼女の玄関前には、車が3台位止められる空間があります。
しかもそれは、今私が薪を割っている我が家の駐車場の、道を挟んで向かいです。

「あの、xxさんちの玄関前に止めたらどうですか? もしくは、村の駐車場はすぐあそこ、見えますか? ほんの10m先です。そこなら、2日でも3日でも好きなだけ止められますよ」

それでも彼は、我が家の駐車場に止めたい様で、ぐずぐずしています。
「ほんの少しの間なんだけど、ここに止めたらまずいかな?」

……まずいに決まってんだろがっ!

4月の日記へ