2009年3月2日 (月)
なすべき時? 10
〜前回からの続き〜
今度のレシーブは、まるで私の決意を応援するかの様にコートの真ん中、そう、J嬢の立っているべき場所へ、綺麗に上がりました。
本来ならレシーブの次はトスですから、現在セッターのポジションについている私が、走って取りに行くのですが、もちろん今回の私は、そんな事はしません。
だって私、そこまで走るには、いささか遠い位置に立たされていますものね。 それに、我がチームはいつだってR氏・J嬢の「全部俺のボール」的プレーをしているのですから、今回だって2人のどちらかが、多分本来ならその位置にいる筈のJ嬢が、取れば良いのです。
しかしボールは、私を含めたチーム全員が見守る中、コートのど真ん中に落ちました。 試合終了、私達の負けです。
この時私は、ある事に気付きました。 R氏・J嬢のおかしなやり方が通ってしまうのは、今までそれでも何とかチームをまとめようとしていた私が、辻褄の合わない部分を補っていたからではないでしょうか? 私が2人に従わないと決めた途端、我がチームはいとも簡単に機能しなくなったのです。
私が辻褄を合わせている限り、この不愉快な状態は変わらない。 日本人的な調和だの思いやりだの尊重だの何だのは、たとえそれが価値のあるものだとしても、相手が同じ価値観を持っていない限り、私の勝手な自己満足に過ぎないのだ。
控え室への階段を上る私に、T嬢が話しかけて来ました。 「みんつ、本気で怒っているんじゃないわよね? その、いつも貴方は穏やかだから、本気で怒ったら、もっと違うんじゃないかと思うんだけど」 この問いに、思わず私は声を出して笑いました。
「T嬢、鋭い! これは計算済みの怒った振りよ。こういう状況で私に噛み付かれたら、R氏もJ嬢もこれ以上誤魔化し切れないでしょう? トーナメントを台無しにして悪いんだけど、今を逃したら私達の問題は、また何もなかったかの様に過ぎてしまうと思うの。折角のチャンスだから、もうちょっと事を荒立てて、何処まで行けるか試してみようと思うんだけど、良いかしら?」
今度はT嬢が笑います。 「ええ、好きなだけやっちゃって。みんつのやり方、気に入ったわ」
一旦トイレに寄って気合いを入れた私は、他チームの試合を観ている皆の所へ真っ直ぐ行くと、R氏に正面から切り出しました。
「私は日本人だから、スイス人とは違うかも知れないけど、はっきり言わせてもらうわ。私も若い頃にバレーをしていたから、ある程度の事は分っているつもりだけど、貴方のプレーは全く理解が出来ないの。だから私は、今まで何度も説明を求めたわよね。でも、貴方は一度も話し合いをしようとしなかったわ。私に貴方の好きな様に動いて欲しいなら、きちんと戦法を説明して。そうでないと、どう動けば良いのか判断出来ないから。その説明がない限り、今後貴方の都合に合わせたプレーは、一切しないわ。それと、プレー中に背中を押されるのは、まっぴらだわ」
これに対するR氏の返事は、こうです。 「分った。今後は、みんつの良い様にするよ」
この答えは、不正解です。 チーム・プレーというのは、誰かの好きに皆が合わせるのではありませんものね。 どのやり方がチームにとって一番良いのか、それを話し合うのが正解ですよね。 でも、この時の私は、「とりあえずはこれで良し」にしました。 R氏が「俺様プレー」を止めてくれるだけでも、現状では収穫ですから。
次の犠牲者は、R氏の後ろに立っていた男性です。 彼はR氏の真似をして、いつも小柄な女性のプレーを邪魔していました。 ……こいつもいっちょ、ついでに締めておくか。
私は彼の名を呼ぶと、人差し指を突き付けて言いました。 「貴方はいつも女性達の邪魔をしているけど、私に言わせれば最低のプレーね。そんなプレーは、2度と見たくない!」 私の剣幕に、彼はしゅんとなり、もぞもぞとその場を離れます。 ……ふん、どいつもこいつも根性無しじゃないか。
もちろん次は、J嬢の番です。 すぐ隣で、背中を向けて試合観戦をしている彼女に、私はきっぱりとした声を出しました。 〜次回に続く〜 |
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