2005年3月1日 (火)  最大の敵 (中)

             〜前回からの続き〜

さて、裁判当日です。
必要そうな書類を全部持ち、30分ぐらい早目に裁判所に着いた私は、自分が出頭すべき法廷を確認した後、ロビーのソファーで本を読んでいました。
すると、スーツを着た年配の日本人女性が、何となく気まずい様子で、私の目の前を横切て行きました。
誰がどこでどう裁判に関わっているかも分かりませんので、私は一応、失礼にならない程度に会釈をしておきました。

時間になり、法廷に入ると、先ほどの女性が座っています。彼女が、私の通訳のようです。
・・・・・・さっき、挨拶しておいて良かった。私にとっては、この人がこれからの時間、唯一の味方です。
少しすると、驚いたことに、私の雇用主が、弁護士らしき男性を従えて入って来ました。
どうやら、彼女も訴えられているようです。

これはいささか、微妙な展開になりました。
私の振る舞い次第では、裁判官だけでなく、雇用主の機嫌まで損ないかねません。
裁判に勝っても失業したのでは、意味がありませんし、裁判自体は、負ける訳には行きません。
当初の作戦では、私、「雇用主の怠慢に非がある」と言うつもりだったのです。
実際、「許可証が出ていないのに就業していることについて、話し合う時間を作って欲しい」という手紙を何通か出していましたし、その控えも持って来ていました。
こうなったからには、仕方がありません。
とりあえず私は、雇用主がどういう戦法に出るか、様子を見ることにしました。

彼女の弁護士は、まるでハリウッド映画に出て来る弁護士のように、その小さな法廷には似つかわしくない程、派手な演説をぶち始めました。
・・・・・・こいつは、映画ならさしずめ、お金さえもらえれば悪いやつでも弁護する、っていう役だな。
そんな呑気なことを思いながら聞いていると、その弁護士は、
「わざとそうしたのではなく、彼女がもう一つ職場を持っている他所の州とは、法律が違うと知らずにいた」
ということを強調しています。

あまり説得のある弁護には聞こえませんでしたが、雇用主が無罪になれば、私も無罪になる確率が高いように思えます。
間接的にですが、彼の論法は、私をも弁護する形になっているのです。
・・・・・・潰し合うよりも、両方無罪になるように持って行った方が、利口だ。
私はとっさに、雇用主の怠慢に付いては、一切発言しないことに決めました。

               〜次回に続く〜

2005年3月2日 (水)  最大の敵 (後)

         〜前回からの続き〜

弁護士のショーが終わり、今度は私の番です。
私は、下手な小細工などせず、本当の事を話しました。

「私、許可証が届いていないことは、知っていました。そのまま働いていたら、何か問題になるかも知れない、とも思いました。
ですから、何度も警察に行き、外国人課の担当官と話をしました。一度だけでなく、何度もです。
その度に担当官は、『貴方は既に、別の職場ではあるけれど、同州の許可証を持っているのだから、問題はない。新しい許可証が届かないのは、警察側の事務処理が、遅れているだけだろう』と言いました。
2人の担当官と話しましたが、どちらの方もそう言いました。
つまり、彼らは私が無許可で働いていることを知っていて、そのまま続けて良いと言ったのです。
許可証を発行する当の警察が承諾しているのに、誰がそれを疑いますか?
私にしてみれば、正直なところ、今回の裁判自体、理解が出来ません。
まるで、ある警官が『ここに車を止めなさい』と言った場所に駐車したら、別の警官に違反切符を切られたようなものです。
これで有罪では、スイスという国の機構自体に、不信感を抱かざるを得ません。
今回のことは、私個人としては、お役所内の連絡ミスだと考えています。誤解が解けることを願うだけです。
それと、私が話した担当官が誰か、必要でしたらお知らせ出来ますので、確認を取って下さっても構いません」

その後、裁判長自身からいくつか質問が出され、裁判は終わりになりました。
幸運にも私は無罪になり、控訴が起こされた事実も、記録から抹消されることになりました(ちなみに、上司も無罪でした)。

法廷がお開きになると、通訳者が私のところに来ました。
「裁判前にお話出来なくて、ごめんなさいね。規則で禁じられているのよ。これから、お茶でもどうかしら?」
私たちは一緒にパフェを食べ、色々な話をしました。
「これからは、私を“スイスのお母さん”と思って良いわよ」
彼女はそう言うと、その後本当に、私の世話を焼いてくれました。
裁判は二度とごめんですが、あれがなければそんな出会いもなかったと考えると、これも良い経験です。

外国人にとって、その国の法律を全て把握するなどということは、ほぼ不可能です。
しかし、スイスでは、知らなかったことは、基本的に自分のせいなのです。
役所の人が知らず、私も知らずにいたことは、私の責任なのです。
私たちに出来ることは、書類を保管しておくなどの、消極的な防御だけです。
面倒臭いですし、理不尽でもありますが、これが現実なのですから、仕方がありません。

問題が起こった時に、泣き寝入りしたり、大した額ではないからと罰金を払ってしまうことは、同じ問題を繰り返し易くさせます。
例えその場では解決しなくても、専門の機関に相談に行くなり、事実を報告しておくことは、将来の改善に役立つと、私は信じます。

もちろん、私のように、いつもいつも戦う必要はありません。そんなことをしていては、身が持ちませんし。
それでも、ほんのちょっと、自分にも出来ることをしておくことは、絶対に無駄ではありません。
何事も、小さな積み重ねから始まるのですから。

2005年3月3日 (木)  ご挨拶

皆様へ

私、うっかり忘れていましたが、一昨日の3月1日でHP開設・一周年だったのです。

全く何も分からずに、ただ「誰かに聞いて欲しいことがある」と、いう気持ちだけで始めたHPですが、皆様の応援のおかげで、私の予想以上に、楽しい場になりました。

1年間、私にお付き合い下さいました皆様、本当にありがとうございます。
みんつの日記は、まだまだ続きます。
今後も、どうぞよろしくお願いします。

それと、1周年記念という訳ではないのですが、偶然、3月9日〜4月10日まで、私たち夫婦は旅行に出ます。
ネットの環境によっては、更新が出来るかも知れませんが、基本的に、この期間の日記は、お休みになりますので、ご了解下さい。
その間も掲示板の方は、今まで通り、皆様で楽しんでいて下さい。

ちょっと早目ではありますが、この場を借りて、ご連絡させて頂きました。

                        みんつ

では、みんつ中毒の皆様、元気良く2周年目に突入!!

2005年3月4日 (金)  消えたうさぎ

私は、お菓子が大好きです。
何も、高級な物でなくて良いのです。その辺のスーパーで安く買えるような、ちょっとしたお菓子が好きなのです。
しかし、そういう物は概してカロリーが高いため、いつも食べる訳にはいきませんので、普段は買わないでいます。
そして、たまに買っても、すぐには食べません。
お菓子が家にあって、欲しくなったらいつでも食べることが出来ると思うと、何となく気が済むのです。

それに比べ、夫B氏は、私のようにお菓子を欲しがったりしません。
自分で買い物をしているにもかかわらず、そういったものは、私が頼まない限り買って来ません。
お菓子を一切食べないという訳ではありませんが、なければないで、気にならないようです。
しかし、一旦お菓子が家にあるとなると、全部食べてしまわないではいられないようです。

ここに、我が家の悲劇が起こります。

私が大切に取っておいたお菓子が、いつのまにか消えるのです。
どこに消えるのかは、敢えて言わないでおきますが。

さて、先日私の機嫌を取ろうと、B氏が白うさぎのチョコレートを買ってくれたことは、お話しました(過去の日記、2005年2月23日『妻の実験リポート』参照)。
それを私、その日のデザートに食べるつもりでいたのですが、一度に全部食べるのは勿体無いので、結局、耳の先を少し食べただけで、取っておいたのです。
うさぎの入った袋を洗濯バサミで留め、無造作に冷蔵庫に入れてありました。

数日後、その洗濯バサミで口を留められた袋は、相変わらず冷蔵庫に入っていましたが、何かが変なのです。
何だろうと思った私、袋を手に取ってみました。

!!! うさぎが、いません!
小さな白い欠片が、申し訳程度に残った、空の袋が洗濯バサミで留めてありました。
・・・・・・また、やられました。今回は、私へのプレゼントだと言ったのに。

もちろん私、仕事から戻ったB氏に、真っ先に聞きました。
「あのね、B氏、私にくれたうさぎだけどね、どうもいなくなっちゃったみたいなんだよね。どこに行ったんだろう?」
「えっ・・・・・・あ、分かった! 逃げたんだよ。ほら、今外は雪だし、あれは雪うさぎだったから」
「そうか! そういえば私、冷蔵庫を閉め忘れたんだっけ」
・・・・・・関西人のようなボケをする私と、楽しそうに笑うB氏。

どうやら私、疑似餌で釣られたようです。

2005年3月7日 (月)  旅の心構え

先日お話したように、私たち夫婦は、今回1ヶ月間の旅行に出ます。
これは、夫B氏の仕事に、偶然空きが出たのと、私がやや強引に、発破をかけた結果です。

「私、貴方の両親とは、こんなに頻繁に会って義理立てしているのに、自分の家族とは、5年前に会ったきりなのよね。これって、いくらなんでも、公平さに欠けているわよね。ひょっとして私、軽く見られているのかしら? それに、スイス生活も、そろそろ休憩を入れないと、うんざりして来てもいけないしねぇ・・・・・・」
私がそう呟いた翌週、B氏は、仕事から戻るなり言いました。
「みんつ、今日、飛行機のチケットを予約したから!」

はい、そうです。今回の旅行先は、日本です。
地方の鄙びた温泉にでも、とっぷり浸かって、剥き立てのゆで卵のような、つるつるお肌にでもなってしまおうかと、思っているのです。
久しぶりの美味しいご飯なので、体型もゆで卵のようになってしまうかも知れませんが。

ということで今、私たちは、出発を数日後に控え、それなりの準備をしています。
まず、大量のチョコレートとチーズを買いました。
家族に「お土産は何が良い?」と聞いても、誰もスイスに何があるのか分からず、結局こうなりました。

それから、知人やB氏の仕事関係者に、私の実家の電話番号を教えました。
これは、何かあった時のためですが、私の妹は既に、スイスからの国際電話を恐れているようです。
前回の帰国時には、私たちがまだ着いていない内から、実家に電話があったそうです。

昨日は、下に住んでいる老婦人の所に行き、留守中の郵便物と水道について、お願いして来ました。
郵便物は、郵便受けが一杯になってしまわないように、時々中身を取り出して、箱に入れて置いてもらうためですが、水道は、留守中に管が氷結しないよう、水を出しっ放しにして出かけるので、気候が良くなったら、蛇口を閉めてもらうためです。

さて、一昨日のことです。
まだいくつかお土産を買いたかった私は、B氏と一緒に町に行きました。
「ちょっと、靴と服が欲しいんだけど、良いかな?」
B氏が言いました。
お土産はもう決まっていますので、特に急ぐ必要もありませんから、私たちはまず、靴屋と洋服店を見ることにしました。
ところがB氏、色々試しては気に入らず、私はほぼ1日、B氏の買い物に付き合う形になりました。
欲しかったお土産は、B氏の買い物の合間に、何とか揃えましたが、土曜日の予定は、私が当初思っていたものとは、違う感じになりました。

「ウィンド・ジャケットなら、家にあるじゃない。あれじゃ駄目なの?」
そう言う私に、B氏は苦い顔です。
「あれは、クールじゃないだろう?」
「そりゃ、クールではないけど・・・・・・でも、ネット(nett:感じの良い)だよ」
「俺は、クールなやつが欲しいんだ」
「・・・・・・」
そう言ってB氏は、靴もTシャツもジーンズも、何軒も見て回りました。

この慌ただしい時期に、B氏は、なぜ服を買うのでしょう?
「ねえ、B氏、何でネットじゃ駄目なの? あれはまだ新しいし、十分使えるでしょう」
お土産の買い物に、もっと時間を割きたかった私は、思い切って聞いてみました。

「あのな、みんつ、俺たちは日本に行くんだぞ。スイスなら、あのジャケットで十分だ。あれなんか、他の人に比べれば、格好良い方さ。でもな、日本は、あれじゃ駄目だ。日本人は、ずっとお洒落なんだぞ。俺だって、それなりの格好で行かなくちゃ、恥ずかしいだろう」
どうやらB氏、それなりに日本を分かっているようですが。

・・・・・・B氏、そういうことは、もっと早く言ってよ。私の服を買う時間、もうないじゃない。

2005年3月8日 (火)  暫く、お休みです。

皆様へ

5年ぶりの帰国を明後日に控え、現在私、舞い上がっております。
特に何がどうということではないのですが、あっちをうろうろ、こっちをうろうろと、落ち着きません。

ということで、今日から日記の方は、お休みに入らせて頂きます。

日本で新しいPCを購入しようと思っていますので、ひょっとしたら、何か書くかも知れませんが、期本的に次の日記は、『4月10日以降』になります。
私の留守中は、掲示板をご自由にお使い、皆さん同士で楽しんでいて下さい。

では、行って来ます!

さあ、魚、たらふく食べるぞ〜。
         
                 みんつ

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