2007年3月2日 (金)  すっかり飼い猫

つい先日、我が家の茶トラ猫M氏は、去勢をされました。

随分慣れたとはいえ、去年の夏までは野良だったM氏ですから、「病院から戻って来たら、2〜3日はいなくなるのだろう」と、私達夫婦は思っていましたが――下に住むお婆ちゃんの猫C氏は、そうでした――外にこそ行ったものの、特に逃げる風でもなく、半日弱ぐらいでまた、何事もなかったかの様に、定位置(私の机の上)に戻りました。

その後は、前にも増して家猫になったM氏――我が家には、猫用のドアがありますから、出入りは自由なのですが――今では殆ど1日中、私の周りをうろついています。
それはそれで、まあ、可愛いから構わないのですが……

昨夜の事です。
いえ、正確に言うなら、今朝の4時ぐらいでしょうか。

ズサッ!!
羽毛布団の擦れる音と共に、私の足に衝撃が走りました。
私が反射的に足を引っ込めると、今度は、その引っ込めた場所に同じ衝撃が。
ズサッ、ザザザザザッ!

そう、M氏です。
掛け布団の上からM氏が、私の足に飛びかかり(ズサッ)、引っ掻いたり噛んだり、抱え込んで猫キックをしたり(ザザザザザッ)しているのです。
もちろんM氏、歯や爪は立てませんから、その遊び自体には、問題ありませんが、なんといっても、朝の4時です。

「M氏、止めてぇ〜」
そう言って、身体を丸めた私の足に、M氏がまた飛びかかります。
ズサッ、ザザザザザッ
「止めろー!」
ズサッ!
「止めてよ〜」
ザザザザザッ!
今朝のM氏、いつになく絶好調という感じで、私の足をがんがん攻撃して来ます。

「M氏ぃ、外に行って遊びなよ」
これだけ私がやられているのに、隣では夫B氏が、ぐうぐう寝ています。

ぐうぐう寝る……
こういう表現は、私はずっと、「文字で表わすからそう書くしかないだけで、本当にぐうぐう寝る奴なんて、いないよな」と思っていたのですが、B氏は、文字通り「ぐうぐう」寝るのです。
そう、「ぐう〜、ぐう〜」という音で、鼾をかくのです。

仕方がありませんから、私は反撃に出ました。
ズサッと飛びかかって来たM氏を、掛け布団ごと持ち上げて、ベッドの外に落としました。
ちなみに我が家のベッドは、床から20cmぐらいですから、M氏が怪我する様な事はありません。
これでM氏も諦めるでしょう。

ところが、その反撃は、M氏の狩猟本能を益々かき立ててしまった様です。
今度はM氏、勢いを付けて「ベッドの下からジャ〜ンプ!」です。

「M氏、止めろ〜」
私が掛け布団の下で、身体を動かすと、今度はベッドの別の側に回って、「下からジャ〜ンプ!」
「M氏ぃ〜〜」
M氏に追いつめられた私は、次の作戦として、B氏にぴったり寄り添いました。
この態勢なら、B氏の身体が作る、掛け布団の山に私も組み込まれ、私の足が何処にあるのか、M氏には分からないはずです。

ズサッ!
ふふふふふ、私の作戦は大成功です。
M氏、てんで的外れな位置に、攻撃をしかけています。
ズサッ、ザザザザザッ!
……私の足は、そんな所にないもんねぇ〜だ。
ズサッ、ザザッ、ザザザザザッ、ザザザザザザッ。
「M氏ぃ、止めろーっ!」
いきなりB氏が起き上がったかと思うと、M氏、一目散に逃げて行きました。

といっても、私の部屋から出て行って、そのまま廊下を回って、B氏の部屋から入って来ただけですけど。

……M氏、手抜きし過ぎじゃない?

2007年3月6日 (火)  深夜の恐怖

私は元々、眠りが浅いたちです。
夜中に目を覚ますのは、ごく普通の事で、朝まで通してぐっすり眠れたという夜の方が、圧倒的に少ないぐらいです。

ですから私、寝起き後数時間は、大抵ぼんやりしていますし、夜中にトイレに行く時などは、半分しか開いていないような目で、ゆらゆらとさまよっている状態です。

そんな私の足下を、夜行性である、我が家の茶トラ猫M氏は、毎晩嬉々として走り抜け、トイレまで同伴してくれます。
その上私は、電気を点けず、懐中電灯を片手にトイレに行きます。

ええ、非常に危険ですね。
M氏を踏んでしまいそうになる事は、実際、良くあります。
そんな時、自称「生まれつき反射神経の良い」私は、いたいけなM氏を踏む代りに、壁に体当たりする事になります。
深夜、廊下の暗闇で、懐中電灯を手に、壁にぶつかっている主婦……それが私ですね。

さて、ある晩の事です。

この日もいつもの様に、懐中電灯の弱い光の中で、私はドアを開けました。
廊下へ出る為、右足を軽く上げた私は、習慣的に少し用心します。
はい、この時M氏が、大抵私の足下を走り抜けるからです。

ところがこの日、開けたドアの間では、何の気配も起こりませんでした。
「ん? 今日はいないのかな?」
私はそのまま、右足を廊下に下ろします。
ぐにゃっ。
「え??」
寝ぼけていますから、私は、咄嗟に事情が飲み込めません。
すると、私の右足は、そのまま「にゅる〜」という感じで、横滑りし始めました。

少し無理な体勢ではありますが、私は咄嗟に、左手をドア枠にかけ、右足をもう一歩踏み出しました。
にゅる〜。
ところが右足は、新たな着地点においても、なお滑り続けます。

さすがにこの時点で、私は、自分が何かを踏んだ事に気付きました。
室内用のサンダルを履いていますから、はっきりとは分かりませんが、ペースト状の何か、です。
しかも、量感があります。

「B氏だ」
まず、私はそう思いました。
B氏は日頃から、あちこちに何かを溢したまま、放って置いたりしますから、きっと寝しなにハンド・クリームか何かを使って、それがドアの前に、たっぷりと落ちているのでしょう。
足の滑り具合も、ハンド・クリームが原因なら頷けます。

私は懐中電灯の光を、床に向けました。
何もありません。
少なくとも、目の悪い私の裸眼では、床の木があるだけです。
「じゃあ、水か牛乳かな?」
B氏がグラス一杯に注いだ牛乳が、ドアを開けた時に溢れて、小さな水溜りを作っていた、という事は大いにあり得ます。

今度は少し屈んで、目を凝らしますが、やはり明るい色の床があるだけです。
幾分ピンク掛った、綺麗な木の色です。
「ん?? 否、待てよ」
この時点で、私の頭が「急いで考えろ!」と警告しました。
そうです、我が家は古い家ですから、床の木が、こんなに綺麗な色であるわけがないのです。

「ピンク掛った茶色……。げっ、M氏だ!」
私は慌てて身体を起こすと、サンダルをブツの真ん中に脱ぎ捨て、そこら中の電気を付けました。
「うへっ、M氏、頼むよ〜」
寝室から眼鏡を取って戻ると、私は、髪の毛を後ろで一つに束ね――ブツに着かないようにです――もう一度床に屈みました。

ええ、ええ、ありましたとも。
ドアの真ん前、私がちょうど足を降ろす位置に、M氏の吐瀉物が、半分ほど私の足に潰された状態で、床の上にあります。
「何でここでなの!? 勘弁してよ。私はただ、トイレに行きたかっただけなのにぃ〜」

……M氏へ。プレゼントは、ねずみで良いです。

2007年3月7日 (水)  知らぬが仏

1週間ぐらい前から、下の階に住むお婆ちゃんは、入院しています。

心臓が弱っているせいで、肺に水が溜まり、呼吸がし難いからです。
鼻から管で酸素を入れてはいるものの、呼吸以外は特に何処か悪いわけでもない様で、見舞いに行った時には、「私が気管支炎になると、あんな感じだな」という具合でした。

お婆ちゃんが留守の間、元々餌を食べる時にしか、家に入れてもらえなかった猫のC氏には、酪農家のR氏が、牛小屋で――これは、お婆ちゃんから借りている物件ですから、そういう事情もあるのでしょう――餌をやることになり、ゼラニウムの水やりや郵便物の管理などは、私がする事になりました。

細かく書けば、本当はもっとたくさんする事はありますが、簡単に言うなら、家の外で出来るものはR氏、家の中の事は私、という分担です。

まあ、私達夫婦が留守にすれば、―――たとえ頼んでいなかったとしても――お婆ちゃんが我が家を見てくれるのですから、お婆ちゃんが入院している間ぐらい、私が彼女の家を見ても、罰は当たりません。

さて、ゼラニウムの水やりです。

これは去年の夏窓辺で咲いていたものを、越冬させる為に室内で保管している筈なのですが、お婆ちゃん、株分けでもしたのか、それとも新しい苗を育てているのか、家のあちこちに、小さな鉢やプランターがたくさん置かれています。
……こんなにいっぱい、一体何処に飾るんだろう?

「こっちの一画は週に一回の水やり、あっちは二週に一回。これは、水は要らなくて、そこのは適当に、土が乾いていたら。でも、あまりやり過ぎると根が腐るから、多過ぎよりは少な目の方が良いわ」

そうは言われたものの、野菜作りが趣味の私としては、後々食べる事の出来ない植物というのは、どうしても関心が持てず、何度聞いてもすぐに忘れてしまいます。
……まあ、要は、枯れなきゃ良いのよね。

ということで、私は先日、そのゼラニウムに水をやったわけですが……

最初は、何も問題がないように思えました。
二週間に一度だか三週間だか、私はとっくに忘れてしまいましたが、とりあえず一回全ての鉢に水をやり、その後、様子を見れば良いだけの事です。

水やりの基本は、あまり頻繁にやらずに、しかし、やる時はたっぷりと。
確か、何かでそんな風に読んだ記憶がある私は、一階の居間から始めて、全ての鉢にたっぷりと水を差して回りました。
「さあ、たくさん飲んで、大きく育つんだぞぉ。ああ、君たちにも、今お水を上げるからね。いっぱいお飲み」

そんな風にして、最後の一画に来た時です。

そこは、二階廊下の突き当たり、ちょうどベランダへ出るドアの前です。
石かセメントか、そんな感じの素材で出来た、長方形の重そうなプランターが、如何にも「手作りです」といった棚一杯に、三段になって幾つも並んでいました。

「おお、ここはたくさんあるな。君たちは、夏になったら、このまま外に出る組だね。じゃ、たくさん水を飲んで、誰よりも早く育つんだぞ」
今までの小さい鉢とは違って、大きなプランターなら、縁から水があふれる心配はありません。
私は、遠慮なく、それらのゼラニウムに水をやりました。

と、1分も経たない頃でしょうか。

じょじょじょじょじょ〜。
「え、何? 何処?」
私が、半信半疑で音のする方、棚の下を覗くと……

「嘘っ! 嘘でしょう!! ちょっと待って。何で? 何これ? まずいよ。これは絶対にまずい!! 何か、バケツ〜ぅ!!!」

……お婆ちゃん、プランターの受け皿がないなら、最初にそう言って。

2007年3月9日 (金)  ドイツ語講座 (スラング 1)

今日は、日常会話で良く使う、口語や俗語を紹介してみようと思います。

尚、これはスイス人の使うドイツ語ですから、ドイツで言われているものとは、違うものもあると思います。

【Kohle(コーレ):石炭】
「お金」の意味です。
「Ich habe keine Kohle.(イヒ ハーべ カイネ コーレ)」と言ったら、「お金が全然ない」という事です。

「今日、飲みに行かない?」と誘われたら、「俺、コーレがないんだよね」なんて言ってみては如何でしょう?


【Maus(マウス):ねずみ】
これは、色々な意味合いで、良く使われます。

まずは、複数形の【Maeuse(モイセ)】で、やはり「お金」という意味があります。
上の文の「Kohle」を「Maeuse」に替えれば良いだけですね。

もう一つは、【Mausetot(マウセ・トートゥ)】という形で。
「Mause」は「Maus」の語尾が変化したものですが、「ねずみ」の事です。
「tot」は「死んでいる」という意味です。

で、この二つが繋がると、もう疑いの余地なく「完全に死んでいる」となります。
刑事物のTV番組などを見ていると、この台詞は良く出て来ます。

飲み会の翌日なんて、「マウセ・トートゥ」ですかね?


【Gas(ガース):ガス】
日本語でもストレスを解消するという意味で、「ガス抜きをする」なんて言い方をしたりしますが、ドイツ語では、「ガス」は抜くものではなく、与える(geben)のです。

【Gas geben(ガース ゲーベン)】と言ったら、「気合いを入れる」とか「本気を出す」という様な意味です。

私がバレーボールの試合中、チーム・メイトに言うのは、命令形で「gib Gas!(ギブ ガース)」ですね。


では、ここで一つ、問題です。
次の単語は、どういう意味でしょうか?

【Schwimmgurt(シュヴィム・グルトゥ):浮き輪】
ヒント:人間の身体の一部です。

…・・・答えは、月曜日に。

2007年3月12日 (月)  本当に先進国なのか? 11

皆さんは、まだ覚えているでしょうか、我が家とテレビ会社R社とのやり取りを?
2006年から、我が村にもテレビのデジタル化が導入され、それに伴い、各家庭に機材が設置され、「より多くの番組がより高画質で楽しめる」事になったのですが……

ええ、そうです、皆さんもご存じの通り、局こそ増えたものの、我が家のテレビは、以前より映りが悪くなりました。
そして、そのことで話し合っている内に、まあ、簡単に言うなら、私は臍を曲げてしまい「全てがきちんとなるまでは、受信料等一切の代金を払わない」と、宣言したわけですね。

そして今日は、その続きです。
尚、詳しい経緯が分からない方は、まず、過去の日記2006年8月10〜18、24日、10月2〜3日『本当に先進国なのか? 1〜10』をどうぞ。

すっかり忘れ去られていたかに思えた、我が家のテレビ問題は、今年もまた、一通の手紙によって始まりました。

はい、R社が事もあろうに、催促状を送って来たのです。
文面こそ穏やかではありますが、要約するなら、「未払い分の代金を10日以内に支払うように」という事です。
こんな手紙が、許されて良い筈はありません。

去年何ヶ月間にも渡り、私が、「そろそろ電話代を請求したい」と思うぐらい“何度も何度も”電話をかけ、怒鳴りたいのを堪えて、穏便に話し合って来たのは、ただ一つの理由からです。
「督促状を送られて、罰金を科されたくない」

スイスの場合、この「督促状」が送られ出すと、その後は状況に関係なく――たとえ両者が、話し合いの最中だったとしても――第2、第3の督促状がじゃんじゃん発行され、こちらがそれを支払うまで、罰金の額が上がって行くのです。

ただこれを避けたいが為に、私は、掛けても掛けても繋がらない電話を掛け続け、訳の分からない事務のお姉ちゃん達によって、たらい回しにされる事に堪え、次々と送られて来る技術者を笑顔で家に迎え入れ……としていたわけです。

それなのに、R社は催促状を送って来たのです。
督促状ではありませんから、まだ罰金は科されていませんが、次の手紙がどうなるかは、見なくても分ります。

ということで、私は再び、R社の社員が出るまで、電話を鳴らせ続けました。
ちなみにこれ、30分以上掛りました。

さて、今回私の電話を取った運の悪い事務員は、20代後半といった感じのお兄ちゃんです。
もちろん、私は、こんなお兄ちゃんの相手をするつもりは、とうの昔にありませんから、冷たい声でこう言います。
「M嬢をお願いします」

お兄ちゃんは、電話の向こう側で営業用の笑みでも浮かべているのではないか、と思える声で、対応します。
「M嬢は現在、休暇中です。宜しかったら、私がお話を伺いますが」
……おぅ、自ら厄介事に巻き込まれたいというなら、こっちだってやぶさかじゃぁないんだぜ。

「色々な人にたらい回しにされるのが嫌なので、いつもM嬢と話していたのですが、そうおっしゃるなら、事情を説明します」
私は、今までの経緯を手短に説明し、最後に付け加えました。
「……それなのに、催促状が送られて来るというのは、どういうことでしょう? 私、正直に言って、貴社の対応に不満です」

お兄ちゃんは、慌てた声で言います。
「ええ、お客様がそうおっしゃるのは、ごもっともです。その催促状は、捨てて下さい。コンピューターの処理は、僕が今すぐにしますから」
「では、これ以降督促状が送られて来ることがない様、貴方が担当者と話してくれますか? それと、M嬢が休暇から戻って来たら、今日の事も伝えてくれますか?」
「ええ、もちろんです!」
「あと、お名前を伺っても良いですか? この次からは私、M嬢か貴方と話すことにしますから」

こうしてもう一人、私の生け贄が増えたわけですが……

こういう会社を、ドイツ語のスラングでは、【Saftladen(サフト・ラーデン):ジュース店→組織のやり方が悪く、何もまともに機能しない会社や店】と言います。

前回の答えは、【Schwimmgurt(シュヴィム・グルトゥ):浮き輪→腹や腰回りの贅肉】です。

               〜次回に続く〜

2007年3月14日 (水)  本当に先進国なのか? 12

              〜前回からの続き〜

私の電話に出た、R社のお兄ちゃんZ氏は、別の事務員M嬢によって、もう何度も繰り返された台詞を、再び言いました。
「では、近い内に電気技師を派遣します」
……やれやれ、また振り出しか。技師はもう、のべ10人以上来ているのに。

「あの、技師の方はもう何人も見えられていて、皆さん口を揃えて『お宅のテレビの受信状態は、この上なく良好です』って言っていますよ」
「でも、今回派遣するのは、S社(R社の親会社です)のスペシャリストですから、今までの技師達が見付けられなかった問題を、見付けられるかも知れません」
……はいはい、スペシャリストね。

「貴方は、その人を寄越す事に、意義があると考えるのですね?」
「はい、そうです。今度の人は、スペシャリストですから」
「分かりました。どうせここまでやったのですから、とことん行きましょう。貴方達の気が済むまで、何人でも寄越して下さい」

さて、数日後。

我が家に来たスペシャリストを見て、私は思わずこう言いました。
「貴方、前にも来ましたよね。うちのテレビに問題はないって、言いましたよね。今日の訪問には、意味があると考えているのですか?」
S社のスペシャリストは、そんな私の問いに、こう答えました。
「どうせ来ているのだから、とりあえず、もう一度調べてみます」

しかし、最初からずっとそうであるように、もちろん今回も、我が家のテレビの受信状態は、100%です。

「おかしいなぁ、受信状態は完璧なんだけどな。以前と比べて、まだ同じ問題が発生しているのですか? ボックス(デジタル用の小さな機材です)は、新しいものに替えたんでしたっけ?」
S社のスペシャリストが、首を傾げます。
「そうですよ。ボックスは替えましたけど、最初から、何も変っていませんよ。最初の時も、今も全く同じです。どうしますか?」

「うーん、我が社持ちで、アンテナに接続しているコードを替えてみましょう。もっと太いやつにしたら、信号の流れも良くなるかも知れないし」
「それで駄目だったら、次はどうしますか?」
「アンテナを新しいものに取り替えます」
「ぁ、それは、私の判断ではどうにも出来ません。アンテナは、下のお婆ちゃんに聞かないと」

「下の方も、ただで新しいアンテナが付くのに、反対するとは思いませんけど」
「アンテナもそちら持ちですか?」
「ええ、全部うちで持ちます」
「そういう事でしたら、もう全取っ替えしちゃって下さい。そうすれば、R社も納得するでしょうから」

以前にも書きましたが、最初は私、ただ単に「テレビの画像がきちんと写るようになるまでは、受信料を後払いにして欲しい」と言っただけなのです。
理由は簡単です。
全く写らなくなる可能性がないとは言えないテレビ放送に、料金を前払いするのはどうか、と思ったからです。

正直なところ、私はこの不出来な放送状態に、それでもお金を払うつもりでいました。
ここは山脈の上ですし、多少電波の乱れがあったとしても、最初の内――R社の技術が安定するまで――は仕方がないだろうと思ったからです。

ところがR社は、「既にコンピューターに打ち込んでしまった数字を、もう一度打ち込み直す事は出来ない」という理由で、ここまで事をこじらせているのです。
一度書いた帳簿を書き直すのが嫌だから……信じられますか?

その結果として、私は1年間以上も受信料を払っていませんし――今まで1円も払っていないのです――各社からのスペシャリストと称する人員は、何時間にも及ぶ無駄働きをしていますし、何処も悪くない機材とその付属品は、少なくとも1台分無駄になっています。

その上今度は、新しいアンテナにコードです。
もちろん、それを設置するスペシャリストも、ただではありませんよね。
コンピューターの数字を打ち直した方が、はるかに安く上がるとは、彼らは考えないのでしょうか?

帰宅後、私から話を聞いた夫B氏は、言いました。
「良いぞ、じゃんじゃんやってくれ。こうなったら、俺達がこの家から引っ越すまで、R社のスペシャリストには、何度でも来てもらって、ただでテレビを見よう!」

その数日後、新しいコードが来る予定だった我が家には……

                〜次回に続く〜

2007年3月15日 (木)  本当に先進国なのか? 13

             〜前回からの続き〜

「W社の技師ですが、R社から、お宅のテレビに問題があると聞きました。今からそちらに伺っても良いでしょうか?」

W社とは、R社の機材を扱っている専門店で、この声は……そう、以前我が家に2〜3度来て、機材に差し込むカードにセロハン・テープを貼り付けて帰った、「スイス版オタク」風のお兄ちゃんです。
この男性、見た目とは大違いで、電話の声は格好良いのです。

数日前に来た、S社のスペシャリストは「コードとアンテナを新しいものと替える」と言っていましたから、機材を扱っているW社の技師が来るのは、その為でしょう。
私はこの申し出を、快く承諾しました。

そして数分後。

我が家に後輩らしき人物を伴って現われた、オタク兄ちゃんは、自身を含め、去年全てのスペシャリスト達が繰り返し行った事――テレビの受信状況を見る画面を開いて、それが100%である事を確認――をすると、やはり全てのスペシャリスト達が言った台詞を、もう一度言いました。

「お宅のテレビの受信状態は、至って良好です」
……だからさ、そんなことは最初から分かっているし、あんた自身も去年確認しているじゃない。今更、何を言ってんだかなぁ。

「ええ、それは知っていますよ」
「テレビの状態は、全く以前と同じなんですか?」
「そうですよ。何もかも、全く同じです」
「ボックスは、新しい物と替えたのですよね?」
「ええ、替えましたよ。貴方が来て、替えて行きましたよ」
「ああ、そうでしたね」

「ぁ、そうだ。他にもね、イタリア語の局の英語放送が、音声を切り替えても入りませんし、ドイツの局が一つ、フランス語で流れるようになりました。それと、ボタンを押すと、番組の予定が出る場所がありますよね。あそこがね、先日S社の技師が来て以来、間違った番組名が出るようになりました。問題は、増えましたね」

オタク兄ちゃんは、何やらもごもごと言って笑うと、今日も機材に差し込んであるカードを引き抜きました。
「セロテープはありますか?」
……もう、止めてよぉ。あんた、自分の家じゃないんだから、そういうものにセロテープとか貼ったら駄目なんだよ。

「セロテープの糊とかが、過熱されて溶けて、機材が故障するような事はないんですか?」
「それは大丈夫です。時々ね、カードが熱で曲がって、接触が悪くなる事があるんですよ。だから、テープとかで厚みを出せば、テレビの状態も治るかも知れない」
……カードが曲がるほど過熱されたら、テープは溶けないか? 否、その前に、そういう事にならない様に、厚いカードを作れよな。

「あの、アンテナやコードは、取り替えないんですか?」
「え、何ですか?」
「S社の人が、コードを太い物にして、アンテナを新しくしたら問題が解決するかも知れないって、言っていましたよ」

「否、その必要はないでしょう。テレビの受信状態が良好という事は、論理的に考えたって、そこに来るまでのアンテナやコードには、問題がないって事ですから」
……確かに、そりゃ論理的だけど。君は、その方向で考察したら、送信側に問題があるって所までは、達しないかい?

「じゃ、どうしますか?」
「とりあえず、セロテープを貼ったので、少し様子を見て、まだ問題があるようなら、僕に電話を下さい」
……もう、電話代が無駄だよ。

オタク兄ちゃんは、後輩にセロハン・テープの張り方を伝授すると、そのまま帰って行きました。

                〜次回に続く〜

2007年3月16日 (金)  本当に先進国なのか? 14

             〜前回からの続き〜

W社のオタク兄ちゃんが、デジタル受信機カードにセロハン・テープを貼って帰った数日後、我が家の電話がまた鳴りました。

「R社の電気技師ですが、その後テレビの様子は如何ですか?」
「相変わらずですよ」
「問題は、解決されていないのですか?」
「全然解決されていませんね」
「では、今からお宅に伺います」

今回現われたのは、新しい技師です。
30代前半といったところでしょうか、笑顔の弱々しい男性です。
この男性は、私から一通り事情を聞くと、やはり、今までのスペシャリスト達と同じ事をし、同じ事を言いました。

「お宅のテレビは、何処も悪くありませんよ」
「そんな事は、初めから分かっていますよ。皆さん、そう言っていましたからね」
「でも、画像の不良状態は続いているんですね?」
「そうですよ」
「おかしいなぁ」

「あの、この辺の地域で問題があるのは、うちだけですか?」
「はい、もう一軒、夜になると画像が乱れるという家がありましたが、そこは、室内に小さなアンテナがあっただけだから」
「みんな問題があるけど、面倒だから電話をしない、ということは考えられませんか?」
男性は、この問いに困ったような笑みを返しました。

「あのね、うち以外のものが原因である可能性は、ありませんか? 例えば、この辺は山だから、風だの何だのによって電波が乱れるとか?」
「風は、よっぽど強いのが吹いたのでもない限り、ないと思います」
「何か他のもの、電波を邪魔する建物だの塔が近くにあるとか、時間帯によって、似た様な周波数の電波を流す場所があるとかは?」

「その可能性は、ゼロではないかも知れませんね。画像の不良状態が起こるのは、どの時間帯ですか?」
「うーん、大抵夜しかテレビを見ないから、それは分からないけど、うちがテレビを点けている時間帯には、いつも問題が起こりますよ」
「夜に何かあるのかなぁ」
「他の地域では、問題はないのですか?」
「つい最近まではあったのですが、xxにあるアンテナ塔はもう修理しましたから、今はもうない筈です」

ね、いつもこうなのです。
彼らはずっと、我が家のテレビに問題があるような素振りをしていますが、本当はあっちのアンテナ塔がおかしかったり、こっちの建物がおかしかったりするのです。
そう、私が最初から信じているように、きっとこれは「送信側の問題」なのです。

実際、知人達の家でも、同じ問題はあるのですが、面倒だからR社にはもう電話を掛けていないそうですし――最初の内は、何度か掛けたりしたそうです――、我が義父に至っては、何の役にも立たないR社に痺れを切らし、契約を解除して、パラボナ・アンテナを設置しました。

「で、どうしますか?」
「そうですねぇ……」
「もし私がテレビを見て、どの時間にどんな障害が起こるのかメモしたら、役に立ちますか?」

実はこの問、私は今まで、ほぼ全員の技師にして来ましたが、彼らの答えは全て「その必要はない」でした。
ええ、ええ、そうでしょうとも。
問題があるのは我が家のテレビなのですから、そんな必要はありませんよね。
ところがこの男性は、我が家のテレビには問題がない事を信じた様で、こう言いました。

「あ、それは大変役に立ちます。そういう事が分かれば、この地域に何かあるのかどうか、調べられるかも知れません」
「では、いつもより気合いを入れて、頻繁にテレビを見る事にしますね」
「そうして下さい。来週になったら、どんな具合だったか、僕の方から一度電話を入れます」

さて、こんな風にして私は、今週、メモを片手にテレビを見たわけですが……
いやぁ、出る出る。

今までは私、さほど真剣にテレビなど見ていませんでしたから――女性には多いのではないかと思いますが、私は大抵、雑誌を読んだり家事をしたり、猫と遊んだりと、テレビを見ながら他の事も同時にしているのです――「時々画像が乱れる」と思っていたのですが、きちんと数えてみたら、2時間弱の映画の間に8回も障害がありました。

次の日も、その次の日もテレビを点けるとすぐに乱れが起こり、それは、定期的に繰り返されます。
平均して、1時間に4回。
放送局も、今までは、映画を放送する2、3局しか見ていませんでしたから、気付きませんでしたが、どの局を点けても、やはり障害が起こります。
私が認識していたよりも、事実は、ずっとR社に分が悪いようです。

……ふふふ、こりゃ、技師からの電話が楽しみだわ。

               〜次回に続く〜

* 現在私は、技師の電話待ちですので、この続きはまた、何かが起こり次第書きます。
途中に他の話が入ると、ややこしいとは思いますが、この問題、いつまで長引くのか分かりませんので。

2007年3月19日 (月)  テレビ、出ちゃいます。

先日、出演依頼のあったNHKから、ウェブ・カメラ・セット1式が届きました。

どうやら、彼らは本気で、みんつをTVに出すようです。
ちなみに出演予定日は、5月27日(日)とのこと。
(*4月から始まる新番組、BS放送『地球アゴラ』に出ます…多分。)

で、私は早速、送られて来たものをインストールだの何だのと、やったわけですが、

どうもね、これがデスク・トップ用の機材なのではないか、と思われる代物で、簡単に言うならば、カメラが固定出来ないのです。
そういえば、質問事項にコンピューターの機種(ウィンドウズかマックか)はありましたが、ノートかデスク・トップかは、なかったんですよね。

というわけで、私が、繋いだカメラをどうすれば良いのか困っていると、私のテレビ出演に大賛成の夫B氏は、にこやかに言いました。
「俺が、適当な台を作ってやろうか?」
「うん! 作って、作って!!」

B氏は、何といっても日曜大工の名人ですから、きっと素敵な台が、出来上がるに違いありません。
……何色にしようかな? ウェブ・カメラ専用の台として、ずっと置いておくとなると、やっぱりシンプルな感じが良いかな?

期待に胸を膨らませていると、B氏がやって来ます。
「ちょうど良いのがあったよ」
「え、それは!?」








ひょっとして、引き出し?

しかも……



万力で止めてあるし。

……B氏、これで終わりなの?

2007年3月21日 (水)  謎は深まる。

現在我が家は、また、夫B氏の半単身赴任状態――週末だけ(金曜日の夜〜月曜日の朝)帰宅します――になっております。

B氏は職業柄、現場がちょくちょく変りまして、自宅から通えない場所で仕事という状況は、珍しくないのです。
私達が知り合った時にも、B氏はまず、「僕の仕事は、家を留守にする事が多いけど、みんつは、そういう生活でも大丈夫?」と、聞いたぐらいですから。

ちなみに、それに対する私の返事は、「ああ、日本人男性は、飲んだくれて帰って来ない、なんて事もよくあるからね。全然平気」でした。

そしてその返事通り、B氏が家に戻らない日の私は、一人暮らしの独身気分に戻って、気ままな生活を送っているわけですが――独身の頃よりも良いのは、そういう事を、お金の心配なく出来る事です――私には、どうにも不思議な事があるのです。

「男性がたった一人家にいる」というだけで、部屋というのは、ものすごく汚れるものですよね?

私が平日の五日間使った部屋は、掃除をせずにいても、汚れたり散らかったりはしないのですが、B氏がたった二日間家にいると、特に何をしたというわけでもないのに、嵐の後とでもいう有様になっているのです。
いえ、正確に言うならば、B氏が帰宅した最初の数時間で、この現象は起こります。

どんな具合かといいますと

まず、バス・ルーム(トイレ、洗面が一緒です)の床がびしょびしょになります。
もちろん、バス・タオルや足拭きマットも同様です。
場合によっては、B氏が通った部屋のドア・ノブも、何故か全て濡れています。

また、私が自分の使いやすい場所に置いた品物は、どこかに消え――大抵、私の背では届かない、高い位置にあります――代りにB氏の物が、幅を利かせています。

台所に至っては、「泥棒が入った?」とでもいう程の散らかり方です。
平日レストランで食べる事が多いB氏は、家に帰って来ると、自分で料理をしたいそうなのですが、そして、それはとても有り難いのですが……
B氏、油や調味料というのは、フライパンの内側に入れるものだとは、知らないのでしょうか?

細かく上げたらきりがありませんが、そんな週末が過ぎ、月曜日が来ると私は、それらのカオス【Chaos:混沌、無秩序、混乱】に再び秩序を与えるのですが……

例えば、私が、冷蔵庫を開けるとしましょう。
猫のM氏にやる為に、牛乳のパックを持ち上げると、それは空なんです。
もしくは、「昼は、サラダでも食べようかな」と思ったとしましょう。
トマトのパックが冷蔵庫に入っていますが、トマトはありません。
そう、パックだけが、良〜く冷えています。

あるいは、「面倒だから、お菓子でもつまんで、食事にしちゃおうかな」なんて事もあります。
B氏が半分食べたのでしょう、棚には、チップスの袋が口を洗濯バサミで止めて、きちんと置いてあります。
しかし、開けるとそれは、やはり空なのです。

これは、何かの暗号でしょうか?
B氏は何故、空になった物を元の場所に戻すのでしょう?

そして今朝、もう一つおかしな事がありました。

朝、M氏に無理矢理起こされた私は、ぼんやりとベッドに座ったまま、目の前の壁を見ていました。
そこにはフックが並んでいて、B氏の普段着が、幾つか無造作に掛けてあります。
ここの服は、基本的に「何度か着たけれど、まだ洗濯はしない」というカテゴリーです。

その中に、ある物が混ざっているのですが……

一回着たけど、まだ洗濯しない物?
本当にそれを、もう一回着るつもり?
それともこれは、新しい謎解き?

だってね、それは、明らかに一度着たと分かる、よれっとしたパンツなんです。
……私はそのパンツを、週末までそこに掛けておくべきなのでしょうか?

2007年3月23日 (金)  大失敗

「スイス人」と聞くと、皆さんは、まず、誰を想像するのでしょうか?

世界的に伝説のテニス・プレーヤーになりつつある、『ロジャー・フェーデラー(Roger Federer)』氏?
それとも、かつて一世を風靡し、再び見事なカム・バックを遂げている、やはりテニスの『マティーナ・ヒンギス(Martina Hingis)』嬢?

今、ちょうど日本で開かれている大会に出場している、フィギュア・スケートの『シュテファン・ランビエール(Stéphane Lambiel)』氏や、スキーのジャンプで金メダルを取った「シモン・アマン(Simon Ammann)」氏もスイス人ですね。

ハリウッドで活躍している、映画監督の『マルク・フォルスター(Marc Forster)』氏――「ファインディング ネバーランド」「モンスターズ ボール」の監督です――や、ゴールド・フィンガーのボンド・ガール『ウルスラ・アンドレス(Ursla Andress)』嬢もいます。

他にも、さほど名前は知られていませんが、ウィンター・スポーツ関連のメダリストには、たくさんスイス人がいます。

しかし、やっぱり日本で一番有名なスイス人は、彼ではないでしょうか?
そう、今は亡きK1ファイターの『アンディー・フグ(Andy Hug)』氏です。

既にスイスに来ていた私自身は、フグ氏の日本での活躍を、実際には知らないのですが、私が「スイス人と結婚した」と言うと、「スイス人? ああ、アンディー・フグがスイス人だよね」という反応をした日本の知人は、結構いたのです。
また、ここスイスでは、「私は日本人だ」と言うと、「アンディー・フグって知ってる? 日本で有名でしょう? 彼はスイス人よ」と言う人も、案外いるのです。

そして、そのフグ氏の面影を、私は先日掴みかけたのです。

私が参加している、村のバレー・ボール・チームのメンバーに、酪農家の奥様がいるのですが、彼女の義兄弟に――ドイツ語では、特にはっきり質問しない限り、兄か弟か区別がない為、どっちか分からないのですが――長い事フグ氏と一緒にトレーニングをしていた、という男性がいるのです。

彼は、スイスだかヨーロッパだかの格闘技のチャンピオンで、その関係で日本に何度も行ったことがあり、現在は、私の住む州にある街のジムで、ボクシングとキック・ボクシングを教えています。

その彼が、我が村の小学校の体育館で、不定期にではありますが、ボクササイズを教えているというのです。

自称ハード・ボイルド主婦の私は、もちろん興味津々です。
アンディー・フグ氏の次に強いスイス人に、ボクササイズを習えるなんて、何だか格好良いじゃありませんか。
いえ、いえ、動機なんて何だって良いのです。
スイス最強の主婦になれる機会は、逃すわけにはいきません。

「それって、誰でも参加出来るの? いきなり、当日体育館に行っても良いのかしら?」
そう聞く私に、酪農家の奥様は言います。
「もちろんよ。貴方が来るって言ったら、彼も喜ぶわ。彼、日本も日本人も大好きだから」
「いつやるの?」
「来週の月曜日、夜8時15分からよ」
「ああ、私、絶対行く!!」

彼がこんな小さな村の体育館で、ボクササイズを教えてくれるのは、ひとえに「義姉妹の頼みを断れないから」という事だそうです。
そこに、彼が贔屓にしているという、“日本人”が参加して、「もっと頻繁に習いたいけどぉ〜、車がないからぁ〜、街には行けないしぃ〜」とか言ったら、彼は定期的に講習を開いてくれるのではないでしょうか?

金曜日の夜、私と奥様は、バレー・ボールの練習後にビールを飲みながら、そんな作戦を練って、別れました。
そして今週です。

「ああっ!!! なんて事を!!」
私は、心底自分をなじりましたとも。
本気で、「こんなんじゃ駄目だ」と考えました。
だってね……月曜日の夜に体育館へ行くのをすっかり忘れていた、と気付いたのは、木曜日の夜だったのです。

……アンディー・フグの知り合いとの約束、思いっ切りすっぽかしちゃいました。

2007年3月26日 (月)  ああ、無情。

我が夫B氏は、今チューリッヒで仕事をしています。

チューリッヒというのは、皆さんもご存じかも知れませんが、スイスの中では「大都会」と言って良い街です。
……まあ、スイスに「都会」自体があるのかどうか、という大きな疑問はありますが。

そんな街で、田舎育ちのB氏は、今回生まれて初めての体験をしたそうです。

昨夜、夕飯を食べていると、B氏がぽろりと言いました。
「俺さ、チューリッヒで、女の人から電話番号を渡されたんだ」

……おぉ〜、何て事でしょう。夫が見知らぬ女から、電話番号を渡されたのです。しかもそれを、夫は、言い難そうに告白しているのです。妻としては、どんな風に反応するのが、正解なのでしょうか?

「すごいじゃん! 電話した?」
「電話はしないよ。全然美人じゃないし」
「そんなのは問題じゃないよ。美人じゃなくったって、有り難い事じゃない。その番号は、記念に取って置きなよ」
「うーん、せめて普通のレベルぐらいなら良いんだけど、はっきり言うと、全然魅力的な女性では、なかったんだよ」

「その人は、スイス人? それとも、外国人?」
「スイス人」
「じゃ、やっぱり貴重だよ! スイスの女性は、そういう事は滅多にしないんだから、自慢しても良いんじゃない」
「うーん、でもなぁ……その人、ちょっと変な感じっていうかさ」

「B氏、そういう経験は過去にもあるの? スイスで、見知らぬ女の人から、電話番号もらった事」
「否、初めてだけど」
「スイス以外の国では?」
「ないよ」

「じゃあ、やっぱり有り難いじゃん! 美人じゃないからなんて言っちゃ、罰が当たるよ」
「でもな、実はさ……」
そう言ってB氏は、ぽつりぽつりとその時の状況を、説明し始めました。

ある日の事、どこかに用事のあったB氏は、トラム(路面電車)に乗っていたそうです。

「多分大丈夫」とは思うものの、本当に今乗っているトラムが、自分の行きたい場所に停まるのかどうか、ちょっぴり不安だったB氏は、側にいたスイス人女性に聞きました。
「このトラムは、xxに停まりますか?」
すると、その女性は、予想外の反応をしたのです。

「貴方は、家に帰るの?」
「いえ、違いますけど。その、ちょっと用事があって、xxに行きたいんです」
「私はね、本当なら、この時間もう家にいなくちゃいけないのよ」
そのまま暫く、女性は、訳の分からない事をまくし立てると、ついでとでもいう感じで、言ったそうです。
「そうそう、このトラムはxxに行くわよ。でも、もし何かあったら、私に電話してちょうだい」

「ああ、B氏、残念だけどその女性は、おかしい人だよ」
「やっぱりそうだよな。俺もさ、そうじゃないかとは思ったんだけど……」
「可哀想なB氏。せっかく女の人から、電話番号もらったのにね」
「……」
「でもさ、考えてみたら私だって、自分からはまだ一度も、知らない男の人に電話番号なんて渡した事ないよ」

「そうだろう。普通の女は、そんな事しないだろう」
「否、そういう意味じゃなくてさ。たまたま、そういう必要がなかったっていうか」
「俺は、もてる男じゃないんだ」
「そんな事ないよ。ほら、B氏はさ、恐そうに見えるから、女の人は近付き難いんだよ」
「もう、良いよ」

……こんなの、どうやってフォローしろと?

2007年3月29日 (木)  美食家M氏

今年の冬は異常気象なのか、ここアルプスは暖かいのです。
どのぐらい暖かいかというと、近所にある4つのゲレンデの内、3つまでもが閉鎖になりました。

仕方がありませんから私は、もう一つの楽しみ、いえ、ここ数年私の最大の趣味となりつつある、畑を始める事にしました。
ええ、ええ、今年もまた、畑を広げていますよ。
そしてもちろん、「もう始めるの!?」と近所のお婆ちゃんにも、言われています。

そんなわけで今、我が家の窓辺には、6つの鉢が置かれています。
2つは、去年から越冬した唐辛子――1年草の筈ですが、騙し騙し茎を切っていたら、今年も頑張る事にした様です――とレモン・グラス。
残りは、コリアンダー、今年用の唐辛子、茄子、ピーマンですが、コリアンダーと唐辛子は、既に発芽しています。

今のところ茄子とピーマンは――我が家の標高(1200m)では難しいのか、何度植えても実が大きくならないのですが、今年は懲りずに、室内で挑戦です――うんともすんとも言わず、日に日に土の表面が、固くなっている感じすらします。

土の質が柔らか過ぎる場合、水やりと共に表面が固まってしまう場合があるのですが、そして、そうなると芽は、発芽していても土から顔を出せないわけですが、この土はコリアンダーや唐辛子と同じ所から取ったものです。
……うーん、やっぱり無理なんでしょうかね。私、茄子大好きなんですけど。

さて、そんな鉢植えに興味津々なのが、我が家の茶トラ猫M氏です。
鉢の中身を記した小さな木片に、鼻面をすりすりとやって、床に落としてみたり、鉢に前足をかけて、まだ何も生えていない土の匂いを嗅いでみたり、自分と同じぐらい大きな鉢の間に座り、外を眺めながら日向ぼっこをしたりしています。

特に夜は、カーテンを引いてあるのですが、今まで真っ直ぐに垂れていただけのそれが、鉢のせいで少し盛り上がっていて、そこが非常に気になる様です。
分かりますか?
カーテンの一部が、床からM氏の視線で覗くと、トンネルの様になっていたりするのですが、その中に攻撃をしかけてみたり、器用に入り込んだりしているのです。

この辺りまでは、私も「M氏は、本当に可愛いよなぁ」と、微笑ましく思っていたのですが……

昨夜、カーテンを引こうとした私は、コリアンダーの小さな芽が一本、倒れているのに気付きました。
曲がって生えたとか、力なく倒れたというのではなく、ぱきっと折られているのです。
そう、M氏の攻撃を受けたわけですね。
「レモン・グラスの次は、コリアンダーか。アジア食品ファンだな、M氏は」

現場を見ていませんから、叱るわけにもいかず、私はコリアンダーの鉢をM氏の手が届かない場所に移動しました。
レモン・グラスの様に、ある程度成長した物を食べるなら(過去の日記2007年2月23日『M氏のこだわり』参照)、まあ構いませんが、発芽したばかりの所をやられたのでは、幾ら何でも笑えませんものね。

そして、今朝の事です。

寝ていた私の耳に、何やら怪しげな音が入り込んで来ました。
それは、窓の方からで、プラスチックを引っ掻いている様な音です。
これは、きっとM氏です。M氏がまた、私の鉢に何かしているのでしょう。

「トイレにだけは、使わないで欲しいよなぁ〜」
私は、静かにベッドから出ると、そっとカーテンを開けました。
が〜ん!!!!
本当にね、が〜ん、という感じでした。ちびまる子ちゃんの、目の上下にざーっとなる絵がありますよね、あんな気分でした。

ああ、これで、茄子とピーマンの土が固くなっていた理由が、分かりました。
しかも、あの土の感じでは、今朝が初めてではない様です。
そういえば、時々私は、外にも行ってなかったM氏の足が汚れているのを、不思議に思っていたのでした。

M氏ね、植木鉢の中に座っていました。
そう、ただ意味もなく、そこに座っているんです。
2つ並んだ植木鉢の、茄子の方に座ったり、ピーマンに座ったり、私の目の前でやってくれました。

……米茄子と西洋唐辛子じゃ、駄目?

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