2007年5月1日 (火)
主婦道?級
例えばキャンプに行き、釣った魚をその場で手際よく捌いて、皆に食べさせてくれる様な男性を格好良いと思う女性は、たくさんいるのではないでしょうか。 そして、捌く魚が大きければ大きい程、その男性の評価も、上がるのではないでしょうか。
それと同じ感覚で、アルプスに住む私としては、仔牛の1匹もちゃちゃっと捌ける主婦は、やはり格好良いのではないか、と思うのです。 ましてや私は、自称ハード・ボイルド主婦なのですから、いずれは狩った鹿や猪なども、粋に捌いてしまいたいものです。
ということで私は、酪農家と知り合う度に、「屠殺の際には、是非私も呼んでくれ」と言っていたのです。 ええ、ええ、皆さん笑ってOKしましたとも。 しかし、本当に呼んでくれた人は、今まで誰もいませんでした。
ところが先日、我が家の電話が鳴りました。 毎週一緒にバレー・ボールをしている、酪農家H氏からです。
「みんつ、前に言っていた屠殺の件は、まだ有効かい? 実は、屠殺はもう済んでしまったのだけど、その後の袋詰め作業が残っているんだよ。それじゃ、駄目かな?」 「うーん、駄目じゃないと思う」 「じゃ、やるかい? ただ、肉がものすごく大量に置いてあるんだよ。気分が悪くなったりしないかな?」 「どうだろう? 分かんないけど、とりあえずやってみる」
「じゃ、明日の朝7時40分に、俺の家の前で。女房が同行するから」 「え、7時40分?!」 「まずいかい?」 「まずくないけど、起きられるかなぁ」
こうして私は、金曜日の朝、H氏夫人と一緒に屠殺場の一室で、150kgの肉に囲まれる事になりました。 ちなみに、この日捌かれた仔牛は、H氏のお気に入りだったため、H氏はこの作業をしたくなかったのです。
今回の屠殺は、個人宅の購入用として特別に捌いたもので、これは、各家庭の冷凍庫にそのまま保存出来る様にして、届けられます。 簡単に言うと、こういう具合です。
大体一家庭15kg前後を目安にして、10家庭位から注文があると、仔牛を1匹屠殺します(注文家庭数が少なければ、今回の屠殺は見合わせ、となります)。 その後、肉は部位毎に切り分けられ、それぞれの家庭に平等に分配されます。
つまり、一家庭には、ヒレ肉から挽肉まで、全ての部位が振り分けられるのです。 全体量を多目に買うか少な目にするかは注文出来ますが、スーパーではありませんから、ステーキ肉だけ買うというわけにはいかない、という事です。
そして、私の仕事は、台の上にずらーっと置かれた肉を、例えば一家族が四人構成なら袋一つに四人分、二人家族なら二人分にして詰め、ラベルを貼り、真空パックにするのです。 購入者の手元に肉が届いた時には、既に「その家庭での食事一回分用に、肉は袋詰めされている」というわけです。
さて、私達が作業をしていると、何度もH氏夫人の携帯が鳴ります。 「みんつは大丈夫か?」「貧血で倒れたりしていないか?」「気分が悪かったら迎えに行くから、無理をしない様に言ってくれ」…… H氏の心配とは裏腹に、夫人は言います。 「貴方とやっている時よりも、ずっとスムーズに行くわよ。みんつは、一袋300gと言ったら、ちゃんと300gにしてくれるわ。貴方みたいに、350gになったりしないわよ」
その言葉通り、私達の作業は快調に進み、私は報酬の代りに、数パックの肉とH氏宅での昼食を頂く事になりました。 「みんつ、今日詰めた肉、ステーキで食うか?」 「食べる!」 「焼き具合は?」 「ミディアム・レアぐらいで。あれ、奥さんの分は?」 「私は、あの作業後にお肉は、ちょっと」
その後、血の滴る分厚いステーキを完食した私を見て、H氏は言いました。 「みんつ、見くびって悪かったな。この次は、豚の屠殺にでも呼ぶよ」
……どうやら私、第一次試験は合格したようです。 |
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