2007年6月1日 (金)  その頃、TVの裏側では… 3

              〜前回からの続き〜

第2のハプニングは、ジャマイカでした。

今回のテレビ出演で、私が一番驚いたのは、他の局ではどうなのか知りませんが、「NHKにはスタッフが大勢いる」という事でした。

例えば、本番当日まで私には、4人のスタッフが付いていました。
映像や音声など、機材担当の方が一人。番組の公式サイト担当の方が一人。当日の台本を具体的に組んで行く方が一人。それらの総まとめ的な仕事をする方が一人。
そして本番では、この方達とは全く別の人が、やはり数人担当になりました。

で、そんなスタッフの一人から、スイス時間で前日の夜――日本時間では、なんと当日です!――Eメールが届きました。
「ジャマイカの方が出演出来なくなりました。基本的な内容は変りませんが、そんなわけで今、必死に台本を直しています」

番組の公式サイトを見ていた方の中には、「あれ?」と思った方もいるのではないかと思いますが、そう、前日までは私、『クロス・チャット』というコーナーの紅一点でしたよね。
アメリカからの女性は、急遽出演になったのです。

そんなEメールをもらった私は――スタッフの方には申し訳ありませんが――ちょっとわくわくしてしまいました。
だって、初めて出るテレビで、生放送の当日キャンセル、ですよ。
この先どうなるのか、楽しみじゃないですか。

で、もちろん、こんな面白い話は、早速夫B氏に伝えます。
「B氏、ジャマイカがドタキャンらしいよ。いやぁ、これぞジャマイカって感じだねぇ」
「おぉ、やるなぁ。ジャマイカは、やっぱりそれぐらいして欲しいよな。今頃ビーチでレゲエか?」

ぁ、ちなみにジャマイカの方は、やむを得ぬ事情ですから、これは私達夫婦の勝手な会話です。

さて、本番当日。
私達は本番の数時間前、リハーサルを行ったのですが……

このリハーサルは、ゲストの方達こそいませんが、司会の2人と私達とで、本番とほぼ同じように行われました。
いえ、その筈だったのですが、何と、リハーサルにまともに参加したのは、私とアメリカの女性だけでした。

ウクライナは、出演予定男性の静止画像のみで、イスラエルに至っては、『アゴラ』のロゴが画面に映っています。

はい、ハプニング3のようです。

司会の女性が、少し戸惑った様に言います。
「本番では、ここでxxxxとなりますが……ええと、イスラエルはパソコン炎上ですか? ウクライナは、今停電だそうです。えっ、電話回線も駄目ですか」
暫くして、ウクライナの男性の声だけが入ります。
「今、工事の人が来ました。ががががって音が入っちゃいますけど、このままで良いですか?」

そして本番では、イスラエルの方は無事出演出来ましたが、やはりウクライナの方は、残念ながら、放送前に録音した会話が流れただけでした。

こんな時、私達はまあ、呑気にプロに任せているだけですから、こういうハプニングも愛嬌ですけど、司会の2人は、それでも番組を進めなくちゃいけませんから、大変ですね。

しかもね、ここだけの話ですが、テレビに写っていないところで、川平さんは私に「良いよ、その調子で」みたいな合図を送ってくれたりしていたのです。
ゲストの二人も、上手に話を振ってくれて、私は、台本にない話題も自然に話す事が出来ました。
プロの皆さんは、やはりすごいですね。

こうして、放送は無事終わったのですが、実は前夜、我が家ではもう一つハプニングがあったのです。

                   〜次回に続く〜

2007年6月4日 (月)  その頃、TVの裏側では… 4

                   〜前回からの続き〜

テレビ出演前日、深夜の事です。
その頃みんつ家では、ジャマイカのドタキャンを面白がった私に、罰が当たっていました。

「B氏、ちょっと見て。膝の裏がさ、何かぼこぼこしてるんだよね」
私は、足首までジーンズを下ろすと、後ろを向きました。
「おお、世界地図みたくなってるぞ。何したんだ?」
「さっきから、あちこち痒くてさ。何だろう?」

そう言って、背中や腹を掻く私の手をがしっと掴むと、B氏はきっぱり言いました。
「掻くな!」
「でも、ものすごく痒いんだよ。ほら、腕の内側にも、赤いぼこぼこが出来てる」
「みんつ、何か触ったか? それとも、新しいボディー・ローションを使ったとか?」
「うーん、ボディー・ローションどころか、今日はお風呂にも入ってないからなぁ。昼間着ていた、ビニールのジャケットかな? でもあれ、前にも着たことあるし……」
「それは、風呂にまめに入れ、って事じゃないのか?」

そんな話をしている間にも、私の身体の赤いぼこぼこは、どんどん広がって行きます。
「うへっ、脇腹のぽつぽつも大きくなってるよ。これ、何かのアレルギーだよね? 夕飯、何食べたっけ? タピオカ・ココナッツがまずかったのかな? 確かにちょっと、古かったけど……。うー、痒い、何かどんどん痒くなってる」
「止めろ。触るな。掻くんじゃない!」
「えぇーっ、ちょっとだけ、ちょっとだけ掻かせて〜」

「駄目だ。掻くと余計痒くなるから、我慢しろ」
「痒いよ。何か、足の裏まで痒くなって来た。ほら見て。足の裏もぼこってなってる」
「ちょっと待ってろ。今、タイガー・バームを取って来てやるから」
タイガー・バーム(塗るとスーッとなる軟膏です)を塗りたくり、全身ペパー・ミント風味になっているにも関わらず、私の皮膚の世界地図は、どんどん広がって行きます。

「うわ、何かこれ、まずいんじゃない? 明日テレビに出るのにさ、こんな斑点みたいなのが出てたんじゃ、絶対まずいよね?」
「首から下なら、長袖を来たら大丈夫だろ」
「首から上にも出たら、どうする?」
「今のところ、首から下にしか出ていないんだから、余計なことは考えるな。このまま治まると信じるんだ」

「NHKに連絡した方が良いかな? 明日はもしかすると、出られなくなるかもって。でも、そんな事したらひんしゅくだよね。幾ら何でも、今から代りは見付からないだろうし、今回だけは、絶対キャンセル出来ないよね。あぁ、ジャマイカさえドタキャンしてなければ、気楽だったのになぁ。もう、起きてても痒いだけだから、私、寝るわ」

しかし、ベッドには入ってみたものの、なかなか寝付けない上、少しうとうととすると痒みが襲って来ます。
「うー、痒い、駄目だ」
起き上がって鏡を見ると、首から両耳に掛けて地図は広がり、額にはうっすらと赤い斑点が浮き出ています。

「B氏、起きて! このままじゃ駄目だ」
B氏を無理矢理起こすと、私は額を突き出しました。
「見て。ね、私、ゴルバチョフになってるでしょう!」
「おお、なってる、なってる」
「どうしよう?」
「どうしようって、医者に行くか? 今何時だ?」

「3時」
「……」
「そうだ、確かこういう場合の、電話相談があったよね。医者に行った方が良いかどうか、相談できる番号。そこに電話してみようかな?」
「ああ、それが良い。あの番号は、まさにこういう時の為にあるんだからな」

スイスには、医院の開いていない時間に何かが起こり、自分自身で緊急かどうか、もしくは、そのまま翌日まで放って置いて良いものかどうか判断できない場合、24時間電話で相談出来る機関があります。

私は、少し緊張しながら、その番号に電話を掛けました。

                 〜次回に続く〜

2007年6月5日 (火)  その頃、TVの裏側では… 5

              〜前回からの続き〜

電話に出た相談員の女性は、ゆっくりと聞き取りやすい口調で、症状について丁寧に質問した後、言いました。

「それは、今すぐ医者に行って、薬をもらって下さい。このまま放っておいても治りませんし、場合によってはもっと酷くなります。呼吸器等の問題が出る前に、薬を飲んで下さい。電話番号案内に掛けると、今夜開いている、最寄りの医院の番号を教えてくれますから」

「B氏、医者に行けって言われたから、車出してくれる?」
「何処に行くんだ? 病院の急患か?」
「それは今、電話番号案内で聞くところだから、支度していて」

深夜3時、顔にまで世界地図が広がりつつある私は、相談員に言われた通り、今度は電話番号案内の番号を回しました。
「今、医療相談機関に電話をしたら、緊急医院に行けと言われましたので、その番号を教えて下さい」

この台詞、問題はありませんよね?
要点は、コンパクトにまとまっていますよね?

ところが電話口の女性は、怒ってでもいるような口調で、早口にこう言います。
「何処?!」
「え? 何ですか?」
「だから、何処なの?」

ドイツ語で「何処」を表わす言葉は「wo(ヴォー)」なのですが、この単語は、他の単語との組み合わせによって、「何の為に」「何処から」「何処へ」「なにで」「なにが」……という具合に、色々な意味にも使えるのです。

で、これを深夜に電話で、いわゆるネイティヴ・スピーカーの速さと不明瞭さに加え、スイス人特有の不機嫌そうな声音で、「Wo……?」と言われた私は、ただでさえ不安だった為、彼女の意味するところが、即座には理解出来ませんでした。

「何でしょうか?」
そう聞く私に、彼女の声音は、益々つっけんどんになります。
「だから、wo……?!」
「woって、何がwoなんですか? 病気の症状? それとも、私が何処から電話をしているかですか?」

「貴方の住まいに決まっているでしょう!」
……あんた、電話局にいるんだから、何処から電話が掛っているかは、分ってるんじゃないの? 決まってるって、何、その言い方は!

「ああ、xx村です」
「xx村って、どの地域?」
「xx山地域です」
「そうじゃなくって、貴方の住んでいる場所の医療機関は、何地域になるのかって、聞いてるのよ」
……それが分ってたら、緊急医院の場所も知ってるだろが! こっちは具合が悪いんだよ。もうちょっと丁寧に話せないのか、あんたは。

「さあ、良く知りませんけど、最寄りの町はxxです」
「ああ、そう。じゃ、144に掛けて」
「え、144に掛けるんですか?」
「そう、144よ。他に用事は?」
「いえ、ないですけど。でも、144は……」

実は、144というのは、スイスの救急車の番号なのです。
その番号に電話したら、救急車が来て、担架か何かに乗せられて、総合病院とかに連れて行かれるのではないでしょうか?
少なくとも、そういう想像をしますよね、普通?

というか、この番号に掛けるだけなら、電話番号案内も医療相談も要りませんよね?
私が、相談員に言われたのは、「緊急に備えて夜間も交代で開けている、個人医院に行って、飲み薬をもらって来い」というだけなのです。

しかし、電話番号案内の女性は、さっさと電話を切ってしまいました。

               〜次回に続く〜

2007年6月6日 (水)  その頃、TVの裏側では… 6

               〜前回からの続き〜

「B氏、144に電話しろって言われたんだけど……」
「144は救急車だろ。みんつが行くのは、個人病院じゃないのか?」
「だよね。どうしよう?」
「144は、なんか掛け難いよな」
「でしょう。私、もう一度医療相談機関に電話してみるわ」

再び電話口に出た、先程の女性相談員は、私を安心させるような口調で言いました。
「お住まいの地域によっては、電話案内では、今夜どの医院が当番なのか、分らない場合があります。その場合は、救急車の番号に掛けると、それを教えてもらえる仕組みになっているのです」

これって、電話番号案内の女性が説明してくれれば、済む事だと思いませんか?
そうすれば、この時点で私は、既に医師と連絡が取れている筈です。

大体、深夜に医院に行きたい人間が、ぴんぴんと元気なわけはないですよね?
場合によっては、本人は大丈夫と思っていても、緊急を要する事だってあるのではないでしょうか?
そういう人物を相手に、あんな横柄な対応をしていても首にならない、スイスの電話局職員って、良い仕事ですね。

私はこの後、144に電話をして、個人医院の電話番号を聞き、次にその医師に電話をして――さすがにこの医師は、夜間の急患に備えているのか、2コールと終わらない内に電話に出ました――やっと、車で近くの町の医院まで、行く事が出来ました。

こういう時、私は毎回思うのですが、スイスで本当に急患になったら、医師本人に会えるまでに、死ぬのではないでしょうか?

さて、診断の結果は、こんな感じです。
「原因は分らないけれど、アレルギー反応が出ているから、薬を5日間飲む様に」
「タピオカ・ココナッツは、今後様子を見ながら、少量ずつ食べる様に」
「アレルギーの原因を突き止めるのは、まず無理だけれど、皮膚に痒みが出る程度なら、心配は要らない」

そして、その場で飲んだ薬が既に効いたのか、翌日、テレビ出演本番までには、身体にこそまだ赤い点々が残ってはいたものの、顔の斑点や全身の痒みは、嘘の様に消えました。

こうして私達夫婦は、ちょっとばかり寝不足ではありましたが、無事、楽しいテレビ出演を終える事が出来ました。
めでたし、めでたし。

と、これで終わる予定でしたが……

一昨日、NHKから私が出演した回の、DVDが送られて来ました。

「何だ、私、割とまともに映ってるじゃん。でも、ちょっと口紅が、赤過ぎたかな?」などと思いながら、放送を見ていた私は、ある事に気付きました。
そう、私は勘違いをしていました。

数日前の日記で、「司会の方は、テレビに映っていないところで、私達素人を励ましてくれている」という様な事を書きましたが……

これ、思いっ切りテレビに映っていました。
本番中私のコンピューターに映し出されていた、殺風景なスタッフ・ルームは、私達だけに見える裏方だと思っていたのですが、これ、番組の演出だったのですね。
私、NHKスタッフへのEメールで「お気遣いありがとうございました、とお伝え下さい」とか書いちゃったんですけど……

ということで、一部訂正です。
司会の川平さんは、特別優しい人なわけではなく、ただ単に、ご自分の仕事をされていただけ、ですね。

……ってこれ、訂正しない方が良かったかしら?

2007年6月11日 (月)  痛い話

我が家には、ちょっとおしゃれな感じのグラス・セットがあります。

これは、長い間「500ml分が入るグラスが欲しい」と言い続けていた私達に、友人が何処かで見付けて、買って来てくれたものです(代金はうちが払いました)。
しかし、他人に物を買って来てもらうというのは、やはり難しいもので、正直に言うならば、私は、このグラスがあまり好きではありません。

何故かというと、
まず、このグラスは長い為、我が家の食器洗浄機には入りません。
次に、このグラスは細い為、手洗いしようにも、底まで手が届きません。
そう、使うのに不便なのです。

ですから私は、このグラスを洗う時には、箸だのお玉の柄を使って、スポンジを突っ込む様にして洗っているのですが、このやり方は、グラスと一緒にそういった棒状の洗い物がない場合、面倒です。
わざわざ汚れていない箸等を出して、グラスと共にもう一度洗うのは、私としては、何となくふに落ちません。

その上、そんな私を誘惑するかの様に、このグラスの細さは、ちょっと無理すれば私の手が入らない事もない、という具合なのです。
という事で私は、「止めた方が良いよな」「危険かな」と感じつつも、時々強引に、そのグラスを手で洗っていました。

そして、ある朝、それは遂に起こりました。

ぱりん、という軽い音と共に、私の右手の小指から、大量の血が流れ出しました。
「うわっ、やった!」
洗剤の泡や血ではっきりとは見えませんが、「これは、縫わなきゃ駄目だろうな」と思うぐらいに、ざっくりいっています。

ところが、病院に行く前に、一つ問題がありました。
というのは、グラスが真ん中辺りで割れた為に、口の部分が腕輪となって、私の手首に嵌っているのです。

はい、パンクのお兄ちゃん達がしている物よりもずっと凶悪そうな、ギザギザに尖ったガラスの腕輪です。
しかもその尖りは、血が流れている指の方に向いています。

どうしましょう?
私の手は、無理矢理グラスに押し込んだものですから、普通に脱ぐには、このギザギザは危険過ぎます。
かといって、そのままにしていたら、多分、手首も切ってしまうのではないでしょうか?

一瞬の躊躇の後、私は大きな声を出しました。
「B氏、手伝ってぇ〜!!」
「ちょっと待ってろ!」
私の腕輪を見た夫B氏は、そのままくるりとUターンすると、ニッパーを手に戻って来ました。

「今、ガラスを切るから、破片が目に入らないように、顔を背けてろ」
「水で血をゆすいだら、こっちに来て」
「こりゃ、縫わなきゃ駄目かもな」
「指を上にして、ティッシュで傷口を押えてろ。今、病院に電話するから」……

B氏は、いつにない素早さでてきぱきと行動し、あっという間に、私を病室まで連れて行きました。
(幸い、私の指の傷は、真ん中の皮膚が繋がっていて、縫わずに済みました。)

ちなみに、この時はちょうどお昼の休憩時間でして、私が病院のベッドに横になってから、看護婦が医師宅に電話を入れていました。
もちろん、それから医師がやって来るまで、私はずっと待っていたわけです。
ね、スイスで急患の場合は、やっぱり危ないでしょう。

さて、全てが済んで私は、B氏に礼を言いました。
「今日、B氏が家にいて、本当に良かったよ。ありがとう。今回はB氏、すごい頼もしかったよ。いつもなら私、病院への電話とか、自分でするもんね」
するとB氏は、こう言いました。
「ああ、今回は、血がいっぱい出たからな。あれは、かなりインパクトが強かった」

……ええと、妻の皆さん、病気や何かの時に、「夫が役に立たない」って思った事はありませんか?
それはどうやら、インパクトに欠けるから、の様です。

2007年6月13日 (水)  お知らせ

皆様へ

只今私、急にやる気が出まして、『みんつの旅』の「インド」を更新しております。

随分昔なのですが、長い旅行だった為、画像が大量にあります。

その上、私のコンピュータが突然、自発的にソフト・ウェアの新バージョンをインストールしましたので、ずっと使えなくなっていたスキャンナーまでもが、使える様になりました。

せっかくですから、勢いのある間に、出来るだけたくさん、旅行の画像をアップしてしまおうと思います。
・・・・・・少なくとも、インドぐらいは終わらせたい。

ということで、今週は日記の方、お休みします。

では、ちまちまとアップしている各地の画像、良かったら覗いてみて下さい。

      みんつ

2007年6月19日 (火)  スイスの伝統。

日曜日、近村である伝統スポーツの大会が開かれました。

他の州の有名選手やマスコミなども来、結構大きな催しだった様です。
・・・結構というのは、ほら、そこはスイスですから。

で、今日はその様子をご紹介します。

こちらからどうぞ

『スイスの伝統スポーツって、何だ?』
(左メニュー 「スイスの色々」→「文化・習慣」→「Schwingen」でも入れます。)

動画はこちら

『別館』へ

2007年6月21日 (木)  好きです、田舎暮らし。

「明日の午後、空いている?」
酪農家M夫人から電話がありました。
「明日また、肉の袋詰めがあるんだけど、今回は午後からしか時間がない上に、仔牛2頭分なのよ。手伝って貰えるかしら? それと、今回もバイト代は、肉で良い?」

記憶にある方もいるのではないかと思いますが、以前「牛の屠殺、解体をやってみたい」と言っていた私に、村の酪農家H氏・M夫人が、「仔牛肉の袋詰め作業はどうか」という提案をして来たのです。

これは、「大量の肉を見るだけでも、気分が悪くなる人もいるから、屠殺や解体の前に、大丈夫かどうかこれで試しては」という、H氏なりの配慮だったのです。

そんなことも知らずに私は、その提案を喜んで引き受け、約150kgの肉を詰めた直後、昼食に出されたステーキをぺろりと平らげるという技を見せ――M夫人は、この作業後数日間は、肉を見るのも嫌だそうです――この試験に合格したのです。

「時間だけは私、いっぱいあるんです。バイト代なんか無しでも、行きますよ」
「あら、そうは行かないわよ。手伝ってもらうんだから、それなりの報酬は出さなくちゃ」

ということで、私は再び、建物自体が大きな冷蔵庫とでもいった感じの、殺風景な解体場に、H氏夫妻と行きました。
ちなみに前回、H氏がこの作業に同行しなかったのは、その日解体された仔牛が、彼のお気に入りの1頭だったからだそうです。

作業が始まると、心許ない風のH氏が、私の元に来ます。
「みんつ、作業はどう? 問題はないかい?」
「うん、ばっちりだよ」
「みんつはさ、女房の言っている事、理解しているのかい?」
「そう思うけど、何で?」

すると、部屋の反対側から、M夫人が声を上げます。
「そうよ、私とみんつは、ちゃんと分かり合っているのよ。分ってないのは、貴方だけよ」
どうやらH氏、女性2人のテンポについて来られず、途方に暮れ始めている様です。
「俺は、何をしたら良いのかなぁ……」

うろうろしているH氏を他所に、私とM夫人のチームは、2回目という事もあり、効率良く作業を進め、3時間半ぐらいで全てが終わりました。

「みんつ、本当に助かったわ。これは、貴方の分ね」
そういって秤に乗せられた肉は、何と、5kg以上もあります。
しかも、全てがきちんと2人家族分用に、小袋に詰められていて、分量や肉の部位名が書かれた、ラベルまで貼られています。

肉1kg当り平均22〜23フランとして――ヒレ肉とかもありますから、ひょっとすると、もっと高いかも知れません――スイスの最低時給は確か21フラン位です、3時間ちょっとの仕事としては、多過ぎますよね?

「え、こんなにもらっちゃって、良いんですか?」
「もちろんよ。良く働いたんだから、このぐらいは当然よ」
「じゃ、遠慮なくもらっときます。さぁ、今日の夕飯はステーキだ」

そう言う私にH氏夫妻が、それぞれ別の表情を浮かべながら――M夫人は驚きの、H氏は愉快そうな表情です――声を揃えます。
「本当に今夜、ステーキを食べるの?」
「ええ。あれだけたくさん美味しそうな肉を見ていたら、お腹減っちゃって。帰ったらすぐ、夕飯です」

大きな袋に入った5kgの肉を、サンタクロースのように担いで家に向かう私に、2人がまた言います。
「退屈だったら、いつでもうちにおいで。酪農家には、毎日やることがいっぱいあるから」「旦那さんがいなくて眠れなかったら、私達の間に、川の字になって寝ても良いわよ」
「ふふふ、ありがとう。ホントに一回、牛舎の掃除か何かに行きますね」

家に戻り私は、夫B氏に電話をしました。
「B氏、今日は肉、5kgももらったよ」
「それは、すごいじゃないか。で、何肉だ?」
「うーん、色々なのがあるよ。挽肉からヒレまで、全種類くれたみたい。今日は2匹捌いたからね」
「俺は、みんつを誇りに思うぞ」

……そういえばスイスには、「愛は胃袋から」ってことわざも、ありましたっけね。

2007年6月22日 (金)  間に合ってます。

「貴方、バレー・ボールが上手だって聞いたから、エアロビクスはどうかと思って、電話してみたのだけど。私達も人数が足りないのよ」
K嬢からそう電話があったのは、今月の初めでした。

すごいですね、いつの間にか私、この辺りの村では「スポーツ・ウーマン」で通っている様です。
正直に言えば、ダンスやエアロビクス等音楽が絡む運動は、私、あまり得意ではありませんし、好きでもないのです。
私が好きなのは、こう、もっと男性的といいますか、攻撃的なスポーツなのです。

ただ、先月小指を切った私は、現在バレー・ボールはもちろん、ジムでの筋力トレーニングもマウンテン・バイクも、畑拡張の為の庭掘りも出来ずにいますから、ちょっとばかり動きたいと思っていたのも、事実です。
ということで私は、さほど深く考えずに、この見知らぬK嬢からの誘いに乗りました。

「ああ、行きますよ。エアロビクスは私、やろうと思った事も、やった事もないんですけどね、試してみます」
この答えにK嬢はとても喜び、気さくと言うよりは、少々うるさいという領域に入るかと思える程のお喋りを、そのまま続けてくれました。

この時点で私は、何かを察するべきだったのです。
「じゃ、木曜日の晩に体育館で会いましょう」
電話口で何度もそう言う私に、K嬢は、構わず話を続けていましたから。

まあ、会った事もない相手に電話を掛けるのは、緊張するでしょうし、その反動で要らぬ話をじゃんじゃんしてしまうという場合も、ないとは言えませんから、その時の私は、大してこれを真剣に受け取らなかったのです。

さて、木曜日の夜。
小学校の体育館に集まったのは、私を含めて、女性が5人だけです。
しかも一人は、たまたまこの時期にスイスの酪農家宅へ出稼ぎに来ていて、そこの夫人に連れて来られたポーランド人、もう一人は先生でした。

はい、簡単な話、このエアロビクスは、K嬢と酪農家夫人が運動不足解消の為に、誰か適当な人を先生として見立て、毎週1時間程音楽を流して――決して、音楽に合わせて、ではありません――動いているという事なのです。

こういう言い方は、本当に申し訳ありませんが、はっきり言ってしまうと、田舎のおばちゃん2人(60歳前後?)が首にタオルを巻いて、顔を真っ赤にしている、という具合です。
その上、この先生自身がまた、でっぷりとお肉が付いていまして……

私自身、決してすらりとしたナイス・ボディーとは言えませんが、20歳ぐらいのポーランド女性は別として、この中で一番エアロビクスの必要がなさそうなのは、私です。
しかも、20分と経たない内に、私はこの4人、否、敢えて言わせて頂けるなら、5人の中で一番機敏に動いている人物、となりました。

実際ね、休憩が何度も入る1時間では、ちょうど良い準備運動程度で、私には物足りませんでしたし、動きも特に激しいわけではなく――マイム・マイムのステップぐらい、といったら分るでしょうか?――退屈な感がありました。

しかし、おばちゃん2人は喜んでいます。
先生すらもが、もう何度も会っているという程の気さくさで、私が仲間入りした事を歓迎してくれています。
「みんつ、エアロビクスは初めてって本当? 貴方、センスがあるわよ」

これはまずいです。
こんな風に言われては、「エアロビ、つまんないっす」とか「運動量、足りないんですけど」とは、言い難いですよね?
だって皆、汗びっしょりですし、今日教わったマイム・マイムのステップについて、熱く語っているんですよ。
どうしましょう?

私は単に、「試して好きじゃなかったら、止めればいいや」程度の、軽い気持で参加したのですが、本来の生徒が2人だけじゃ、簡単には抜けられませんよね?
そんな事をしたら、すごい目立ちますよね?
絶対、おばちゃん達から「何故? 何処が気に入らなかったの?」とか、追求されますよね?
しかも、ジュース奢ってもらっちゃったし。

……これって、新手のキャッチ・セールス?

2007年6月26日 (火)  続・間に合ってます。

(前回の日記、『間に合ってます』を未読の方は、まずそちらからどうぞ。)


1回参加しただけで、既に「どうやってフェイド・アウトしよう?」と考えていた、エアロビクスの2回目がやって来ました。

もちろん、急に止めるわけには行きませんから、この日の私の課題は、「将来への足がかりを付ける」です。
「エアロビは今、指を怪我していて、他のスポーツが出来ない間だけ」という事を、皆にさりげなく伝えるのが、今日の目的です。

そんな下心のある私は、誰よりも先に体育館に行き「積極的に参加している」=「このグループや活動内容自体は、好意的に捉えている」という事を、アピールすることにしました。

簡単な話、「エアロビはぁ、出来るなら続けたいけれどぉ、本来なら私はバレー・ボールもやってるしぃ、ジムも1日おきに通っているしぃ、これからの季節、水泳や自転車、山登りもあるしぃ……残念ですけどぉ、いっぱい、いっぱいですぅ」という方向に持って行こう、という作戦です。

まだ開いていない体育館の前にいる、私を見た皆の反応は、概ね私の予想通りでした。

が……

「みんつ、『フレデリックとマウス(ねずみ)たち』はもう見た?」
私をこのグループに誘ったK嬢が、挨拶もそこそこに、いきなり言いました。

「え? フレーデル・マウス(こうもり)?」
「小学校でやってるお芝居よ。うちの主人が見たんだけど、感動したって言っていたわよ」
「?????」

「地域新聞は読んだ?」
「読んでないです」
「じゃ、今度持って来てあげるわ」
「ああ、いえ、新聞は取ってますけど、まだ今日のは読んでいないんです」
「あら、そう。あのお芝居は、見た方が良いわよ」
「はぁ……」

実は私、演劇には興味がないんです。
映画は好きですが、生の芝居は、見に行こうと思った事がないのです。

そんな私にK嬢は、まるで私が、「観劇が好きだ」とでも言ったかの様に話します。
大体私達が会うのは、今日が2回目で、まだろくに話すらしていないのです。
それなのに、何故K嬢は、「観劇が私達共通の趣味」とでもいう様な話し方をするのでしょうか?

「宣伝のパンフレット、郵便受けに入っていなかった?」
「ええと、ちょっと気付かなかったです」
「おかしいわね、貴方の所にも来たはずよ」
「じゃぁ、家に帰ったら見てみます」

するとK嬢は、リュックサックから1枚の紙を出し、私に広げて見せました。
「ほら、これよ」
そこには子供のつたない字で、タイトル、時間、場所と共にたくさんの名前――名字はなく、名前だけです――が書いてあります。
どうやらこれは、村の子供達が授業の一環か何かでやっている劇の様です。

「うちの子達も出てるのよ」
「は???」
「貴方も行った方が良いわ」
「はぁ……」
「貴方、色んな人と知り合いにならないと、いけないでしょう?」
「えっ???」
「このパンフレット、上げるわ。お芝居はまだ何日間かやるから、行くと良いわ」

これって、要約すると「うちの子供達が出ている学校のお芝居に、たくさんの人が見に来てくれると、うちの子供達が喜ぶから、みんつにも是非協力してもらいたいの」という事でしょうか?

……恐い。こんなやり方恐過ぎる。これじゃ、本当にキャッチ・セールスじゃん。

2007年6月27日 (水)  ちっ。

何をやっても上手く行かない日、というのがあります。

昨日までは普通に動いていたスキャンナー、散々手こずった後に、やっと作動したと思ったのもつかの間、何故か画像全部、勝手に捨てられてしまいました。

「捨てましたけど良いですか?」って警告されたって、どうしろというのか?
ミス・スイス候補達の画像だったのに……
もちろん、ゴミ箱にもなかったし。

仕方がないから、今日は庭の草取りでも、と思った途端に雨。

今夜行こうと思っていた、いつも水曜日が「すし&刺身の食べ放題」だったレストランは、予約の電話を入れたら、別のレストランになっていました。

で、今、私の右手は、親指から中指にかけて真っ黒。
一番使いやすかった水性ボールペン、インクが漏れていました。

皆さんならこんな日は、どうしますか?

私ですか?
こうやって日記に愚痴った後、ジムにでも行って来ます。

……あそこ、サンド・バッグがあったよなぁ。

2007年6月29日 (金)  2007年度『ミス・スイス』コンテスト!

「ミスター・スイス」コンテストで騒いでいる女性陣を横目に、ぶーたれていた男性の皆さん、遂にこの時期がやって来ました。

ええ、ええ、タイトル通り、『ミス・スイス』コンテストです。

もう、余計なことは言いません。
さっさとリンク先に、ジャンプしちゃって下さい。

では、どうぞ(↓)。

『今年はどんな美人が?!』
(*時間が経った為、画像は外しました。)

7月の日記へ