2005年6月1日 (水)
人生色々
W氏は、警備会社に勤めていました。 地元の陸上でマラソン選手を務めている彼は、派遣先のデパートで万引きがあると、必ず犯人を捕まえることが出来ました。 W氏は足が速いだけでなく、仕事中に無駄口も叩きませんので、上司からも派遣先からも絶大な信頼を受けていました。
ある時、W氏が派遣されているデパートで、深刻な問題が持ち上がりました。 決算期が来てみると、売り場のオーディオ製品が、ごっそりと失くなっていたのです。 どうやら、定期的に何者かが、店の商品を少しずつ盗んでいるようなのです。 W氏と同僚は、以前にも増して万引きに目を光らせました。
数週間後、W氏に比べうだつの上がらなかったその同僚が、犯人を捕まえました。 自宅の部屋に、盗んだ品を箱も空けずに置いていたW氏は、こっそり後をつけて来た同僚に、取り押さえられたのです。
X氏は、もうかなりの高齢です。 定年してから既に何年も経ちますので、家でのんびりする以外には、特にしなくてはいけないことも、もうありません。 自然の中で鍛えられたその身体は、今でも健康ですし、昔から勤勉だったX氏にとっては、何もしないでいるというのは、何とも難しいことです。 ですからX氏は、薪を割ります。
納屋には、天井まで何層にも積み上げられた薪があり、今年だけではなく、この先何年間も冬を過ごせるぐらいの量ですが、X氏は、薪を割り続けるのです。
ただ、X氏には一つだけ、問題がありました。 薪を切り出すのに必要な、チェーン・ソーのエンジンが掛けられないのです。 チェーン・ソーは、付いている紐のようなものを勢いよく引くと、エンジンが掛かる仕組みになっているのですが、この紐が、高齢でやや手先の震えるX氏には、上手に引けないのです。
ですからX氏は、チェーン・ソーのガソリンを買う近所のガレージに行き、そこの店員にこの紐を引いてもらいます。 そして、エンジンが掛かり、うなりを上げているチェーン・ソーを手に、森へと薪を切り出しに行くのです。
Y氏は、ある晴れた冬の日、一緒に住んでいる両親に言いました。 「ちょっと、スキーに行ってくる」 そしてそれっきり、Y氏は、家に戻りませんでした。 心配した両親は、冬山に捜索隊を出しましたが、ついにY氏は見つかりませんでした。
それから7年後、Y氏の両親に、連絡が入りました。 「Y氏は、イタリアで暮らしている」と。
7年前のあの日、Y氏は、家を出た後、裏山に穴を掘ってスキーを埋め、イタリアに行ったのです。 家庭でもめていた訳でも、両親にイタリア行きを反対されていた訳でもありません。 ただ、そうしたのです。
ある日、新聞の死亡欄に、まだ若いZ氏の名前が載りました。 厳粛な葬儀があげられ、将来有望な若者の死に、知人や家族は驚きを隠し切れませんでした。
しかし、元銀行員であったそのZ氏は今、救急車の運転手をしています。 あの死亡記事は、Z氏が自分で出したものだったのです。 高速道路で交通事故があると、Z氏はサイレンを鳴らし、颯爽と怪我人を助けるべく出動して行くのです。
……これ、全員、夫B氏の知っているスイス人です。 |
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