2007年8月2日 (木)  避暑地のみんつ

私が今、大きなマグ・カップを両手で抱え、心持ち猫背になりながら、熱いコーヒーを啜っていると言ったら、皆さんは何を思うでしょうか?

では、靴下を2枚履いている、としたら?
ええ、ええ、もちろんフリースも着ています、とも言ったら?
その上、薪を焚くかどうか迷っている、と知ったら?
いえ、本当は95%ぐらい焚く方に気持が向いているんです、と聞いたら?

そうです、寒いんです!!
信じられますか、8月で薪を焚くなんて?
スイスは北半球ですからね、もちろん今は夏です。

……寒い。

私が、薪を焚くのを躊躇っている理由は、ただ一つです。
8月、この夏も盛りの時期に、暖房を入れるという事が、私の育った環境から来る常識に、著しく反しているからです。

……足なんか、きーんと冷たいの。

村のお婆ちゃん達が、今日薪を焚くかどうか迷っているだろう理由も、多分今が夏で、世間では「夏は暑い」と決まっているからです。

……鼻水も垂れて来てるし。

こういう日は、外に出て身体を動かすと、血行が良くなって、寒くなくなるのですが、はい、今外は雨です。

……過熱しているコンピューターが心地良いって、どうです?

皆さんご存知の通り、私は千葉で生まれ育ったわけですが、千葉というのは、日本の中でも気候的に過ごしやすい地域だと聞きました。
年間を通して、割とマイルドな気候だそうです。

で、そんな私が、ここアルプスで暮らすようになり、今年のハズレ夏で――6月はずっと雨。7月はちょっぴり盛り返したものの、暑いとは言えず、8月に入った今、「もう秋なの?」という感じです――つくづく感じたのは、人間というのは、うっとおしい気候の中で暮らし続けると、鬱になれるという事です。

もうね、ホントに気持が、どよ〜んと落ち込んじゃうんです。
何もやる気がしないし、ご飯食べるのも面倒な感じで。

理由は、天気が悪いから。
こんなの、有りですか?

ええい、焚いてやる! 
夏だろうが何だろうが、ガンガン薪を焚いてやる!!
村の人が何を言おうが、私は寒いんだ。
トイレばっかり行って、紙代だってかさむんじゃ。

……文句あるか、うりゃ〜っ!

2007年8月6日 (月)  スイス人の習慣に違和感を感じる女の日記

朝起きて窓を開けると、外にいるのでしょう、下の階に住むお婆ちゃんが、大きな声で私の名を呼びました。

コーヒーを淹れようと台所にいた私は、一瞬、これを無視しようかとも思いましたが、すぐに思い直して、窓から顔を出しました。
まあ、相手は御老体ですし、コーヒーは後で淹れれば良いだけです、大した手間でもないと思ったのです。

スイス人と付き合っていると――イギリス人の義姉もそうですから、ひょっとすると、西ヨーロッパ人と言って良いのかも知れませんが――彼らが何気なくする習慣で、日本人の私には、非常に気になる事が幾つかあります。
その一つが、これです。

今は亡き私の母は、娘三人を躾る時に、こう言いました。
「用のある人が、相手のそばに行きなさい」
分りますか?

例えば私達子供が、2階から大きな声で、1階の居間にいる母を呼んだとしましょう。
「お母さ〜ん、ちょっと来て!」
しかし母は、2階には来ません(もちろん、緊急等の場合は別です)。

何度呼んでも来ない母に痺れを切らし、私達が居間に降りて行くと、母はこう言うのです。
「私に用があるのは、貴方よ。それなのに、私を貴方の元へ呼びつけるのは、横着でしょう。大声を上げる代りに、用のある貴方が、私の所へやって来なさい」

そういう風に育った私は、スイス人が大きな声で相手を呼びつける場面に出くわす度、違和を感じます。
しかも大抵の場合、重要でも何でもない事で大声を出しますから、私には、品がない様にすら思えます。

しかし、ここアルプスはど田舎で、酪農家だらけの土地ですから、品なんて誰もありゃしません。
そんなものを求める事自体が、間違っている、というものです。

ですから私は、コーヒーを淹れる手を止めて、窓から顔を出しました。

「何ですか?」
「昨日、義理の息子が来てね、貴方の畑にエンダイブを植えて行ったから。苗を作ったら、たくさん出来過ぎたらしいのよ。大きくなったら、みんつが食べても良いし、要らない様なら、私が食べるから」
「はぁ……」

今年は雨ばかりの夏で、確かに私の畑の一角には、何も植わっていない様に見える場所があります。
ここは、雨の間に生えてきた芽を、ナメクジが片っ端から食べてしまったのです。

しかし、そう、私がそこをそのままにしているのには、理由があります。
その隣に、秋から冬にかけて伸びるサラダ野菜の種を、びっしりと植えたからなのです。

つまり、ここ2週間ぐらいの内に、サラダ野菜の目がたくさん生えてくる予定なのです。
で、もちろん密集して芽は出て来ますから、間引きしたものを、その隣の空いた場所に、植え直そうと思っていたのです。

が、そこにはお婆ちゃんの義理の息子が、エンダイブを植えて……

……頼むからさぁ、やる前に、一言聞いてよぉ。
♪あぁ〜、違和感があるぅ〜♪

2007年8月7日 (火)  多言語国家の罠

今までも何度か触れましたが、スイスには母国語が4つあります。
それは、話す人口の多い順に、ドイツ語、フランス語、イタリア語、レトロマン語です。
(私の住む州では、フランス語以外の3つが話されています。)

また、スイスは外国からの難民等も、積極的に受け入れていますし、国際結婚のカップルやその子供達も珍しくありませんから――私の周りを見ると、スイス人同士のカップルの方が、少数派です――4つの母国語以外にも、多くの外国語が聞かれます。

ちなみにスイスの学校では、最近は国際情勢に会わせて、少しずつ変って来てはいる様ですが――英語の需要が増えているのです――基本的に、ドイツ語を母国語とする人はフランス語を、それ以外の人はドイツ語を習います。

そんな状況に暮らすスイス人は、やはり語学に堪能で、田舎のかなりお年寄りというのでもない限り、程度の差こそあれ、皆数カ国語を理解します。

その上、ラテン系の言語は似ていますから、フランス語、イタリア語、レトロマン語のどれかを母国語とするスイス人は、かなりの確率で、他のラテン系の言語も理解します。
そして、そういうスイス人は、外国語ではあるものの、やはりラテン系の言語であるスペイン語、ポルトガル語等も、割と容易に理解します。

この多言語が入り乱れて使われている日常は、本当にスイスならでは、だと思います。

さて、日曜日の事です。

この日はハズレ夏の合間に、やっと太陽が出ましたので、私達夫婦は知人のM氏、E嬢カップルと一緒に、湖へ泳ぎに行きました。

そして、やはり皆考えることは同じなのでしょう、湖には驚くほどたくさんの人が来ていました。
私達が布を広げた側にも、所狭しと人がいたのですが……

目の前に座っている2組のカップルの話す言語が、私達4人には???だったのです。

これは、実は、珍しい事なのです。
スイスに住んでいると、普段から色々な言語を耳にしますので、話の内容は分からなくても、何語かぐらいは分るものなのです。
一人では無理でも、4人も揃えば大抵、誰かが推測出来る筈なのですが、このカップルの話す言語は、本当に???でした。

「ロシア語とラテン系のミックスみたい」
そう言う私に、E嬢が頷きます。
「うん、ラテン系のリズムはあるよね。でも、ラテン系の言語じゃないよ」
E嬢は、スイス育ちのイタリア人ですから、ラテン系言語はお手の物です。

「ロシア語っぽい単語があるけど、濁音が少ないしなぁ。となると、トルコ語でもないよ」
首を傾げる私に、M氏も同意します。
「東南ヨーロッパかな? でも、スラブ系じゃないな」
「レトロマン語の方言じゃないよね?」
私のこの問いには、全員が首を横に振ります。

「ギリシャ語じゃない?」
E嬢が当てずっぽうに言いますが、この辺は案外穴場かも知れません。
というのも、ギリシャ語は、スイスで意外に聞くことのない言語だからです。
「ギリシャ語じゃないだろう。容姿が完全に違うし」
M氏はこの案に不賛成な様ですが、そういえば皆、白い肌にどちらかというと金髪系です。
「やっぱり、東ヨーロッパじゃないかなぁ? 北かなぁ?」……

そんな私達の会話もすっかり終わり、夕方、彼らが帰る際に、E嬢が思い出した様に聞きました。
「すいません、貴方達の話していたのは、何語ですか?」
「レトロマン語ではないですよ。チェコ語です」
「ああ、チェコ語かぁ!」

大きく頷きながら、彼らの後ろ姿を見送る私に、ずっと黙っていた夫B氏が、言いました。
「気付いたかい? 今の答え、思いっ切りスイス・ジャーマンだったぞ。チェコ系のスイス人だな、ありゃ。俺たちの会話、全部理解していたと思うな」

……あぁ、私、真後ろで「あの男性、良い身体してるよね」とか言ってしまった。

2007年8月8日 (水)  B氏の日本語

私達夫婦は以前、1年3ヶ月間ぐらい、日本(私の実家)に住んでいた事があります。
ですから夫B氏は、語学学校等には行きませんでしたが、生活の中から耳で覚えた様で、幾らか日本語が出来ます。

しかし、皆さんも想像に難くないでしょうが、耳から覚える言語というのは、知っている文法や単語のレベルがまちまちです。
酷く難しい言葉を使ったかと思うと、幼稚園生でも分る単語を知らなかったりします。

簡単な例を上げると、B氏は刺身が非常に好きですから、魚屋に一人で行き、並んでいる魚(丸ごと1匹です)の内、どれが刺身で食べられるか聞き、3枚に下ろしてもらい、猫用に骨や頭を貰って来る、という様な日本語は話せますが、肉屋で挽肉300gを買う事は出来ません。

また、「パートナーが自分の母国語を理解するかどうか」に、殆ど関心のない私は――むしろ、出来なくて良いとすら思っているのです――B氏から聞かれない限り、日本語を教えません。

ところが不思議なもので、何処かでちょこちょこと耳にする度に、B氏はその日本語に興味を示します。
子供の勉強みたいなもので、こちらが「別に、やらなくて良いんじゃない」という態度でいると、やりたくなるのでしょうかね?

さて、ここ数日間の事です。

先週辺りからB氏は、iPodでダウンロードだか何だかをしている様なのですが、突然私に聞きました。

「『開(ひら)いて』ってどういう意味だい?」
「『開(あ)けて』って事だよ」
私の実家にいた時、皆から、固い蓋等を「これ開けて」と頼まれていたので、B氏は「開ける」の意味は分るのです。

「『開く』と『開ける』は、どう違うんだ?」
「うーん、同じかな」
「そうか、同じなのか」
その後暫く、B氏は何やら一人で「……開いて……開いて」と呟いていました。

その数日後、B氏がまた聞きました。

「『お邪魔します』と『ただいま』はどう違うんだい? どっちも、家に入る時に言うんだろう?」

「そうだね。『だだいま』は自分の家、『お邪魔します』は他所の家だよ。『お邪魔します』は『お』『邪魔』『します』で、『お』は丁寧な『お』、『邪魔』は『Stoerung(シュトールング)』、『します』は『する』の丁寧語だよ」

「ああ、邪魔をするから、『お邪魔します』か! じゃ、友達の家に行く時は、どうするんだい? これも日本人は、邪魔なのか?」

「お、良い所に気が付いたね。親しい友達には、言わなくても良いんだよ。ただ、その友達が、家族とか誰か別の人と住んでいる場合は、その人達を邪魔するから、ちょっと大きめの声で、その人達に聞こえる様に『お邪魔します』って言うの。まあ実際、何も言わないで上がるのも変だから、友達の家でも何となく、『お邪魔します』とは言うけどね」

「じゃ、ここで問題です。他所の家に入る時は『お邪魔します』ですが、帰る時には何と言うでしょう?」
「分った! 『さようなら』だ」
「はははは、まぁ、それでも良いか」

「正解は何?」
「もう、邪魔はしちゃったわけだから、『お邪魔します』を過去形にすると?」
「『お邪魔します』『た』……『お邪魔しました』?」
「当り!」

そのまた数日後、昨日の事です。

仕事から帰ったB氏、私の顔を見ると、得意気に日本語で言いました。
「ブラウザーを開いて、お邪魔します!」
「えっ?! ???」
その後、一人ツボにはまっているのか、高笑いするB氏。

……B氏よ、それは、「おやぢギャグ」なの?

2007年8月10日 (金)  ねぇ、喧嘩売ってる?

【A嬢の場合】

私が畑で野菜を採っていると、A嬢が言いました。
「それは、ほうれん草?」
「いえ、マンゴールドです。放って置いたら伸び放題になってしまって。一回、思い切って、ばっさりやろうと思うんです」
「そうね、それは、そんなにたくさんは要らないわね。大体マンゴールドなんて、2〜3株で十分なのよ」

【B嬢の場合】

ある時、B嬢が聞きました。
「みんつ、日本では、毎日お米を食べるの?」
「そうですね。最近は欧米食も増えているけど、基本的には毎日、お米にお味噌汁、魚と野菜です」
「スイスでも、そういう食事なの?」

「いえ、魚はあまり手に入らないんで、日本食は殆ど食べません。まあ、それでも私が作れば、幾らか和風気味にはなりますけど」
「普段は、どんなものを食べるの?」
「野菜中心のメニューが多いです」
「あぁ、野菜は安いものね」

【C氏の場合】

私が知人女性と、湖畔のレストランで食事をしていた時です。
湖から上がって来たC氏が、私の隣に席を取り、煙草に火を点けました。

「ぁ、食事中に煙草吸ったら、気になるかな?」
知人女性は「全然。気にしないで吸って」と答えましたが、私は、本音を言いました。
「うん、正直に言うと、気になる。副流煙は、自分で喫煙するよりも、害があるし」

するとC氏は、こう言いました。
「じゃ、あっちの席に座れよ」

【D嬢の場合】

私達夫婦が、知人カップルを呼んで夕飯を作っていると、D嬢夫妻が、突然やって来ました。

サラダ用にレタスを千切っている私を見て、D嬢が一言。
「私、このサラダ好きじゃないのよね」

【E氏の場合】

私達夫婦とE氏で食事中、好きなテレビ番組の話題になりました。
私がある番組名を上げると、E氏が言いました。

「あぁ、あの番組か。僕は好きじゃないな」
「うーん、まあ、多少画一的ではあるけど、男女間の事とか、なかなか上手く描いているじゃない。うちなんか、結構あのパターンに当てはまる時、あるよ」

「僕は、あれには当てはまらないな。それに陳腐だよ、あれは。あんなのは、安っぽく話を作ってるだけじゃないか」
「そうかなぁ? でも、純粋に笑えるじゃん。見た事あるの?」
「いや、一度もない」

【F嬢の場合】

日向ぼっこをしながら、一緒にお茶を飲んでいると、F嬢が言いました。
「私、年齢の割には、スタイルが良いって言われるのよ。お尻なんかも、xx歳にしては、すごく良い形してるし」
「ふぅん、そうなんだ」

その数分後、私達は散歩に出掛けました。
先程までの巻きスカートから、ズボンに履き替えた私を見て、F嬢が言います。
「みんつのお尻、ぺっちゃんこね」

……こいつらみんな、一度殴って良いですか?

2007年8月13日 (月)  真夏の恐怖

今年のアルプスは本当にハズレ夏で、雨ばかり降っているせいか、蚊が大量に発生しています。

で、湖での遊泳や散歩、畑の楽しみを奪われてしまった私は――私の畑、雨の間に雑草は伸び放題、ナメクジは野菜食べ放題、という有様です――晴れ間が出ると、急いで隣町まで自転車を飛ばし、廃校(小学校)を利用して出来たフィットネス・ジムでの筋力トレーニングを、唯一の楽しみとしているわけですが……

その日も朝から天気が悪く、私は、少しでも日が差したらすぐジムへ行ける様にと、すでに運動着を着て、ネット・サーフィンをしていました。
が、時間が経つにつれ、外はどんどん暗くなり、遂に雷まで鳴り始めました。

我が家は標高1200m、山の中腹にある村ですから、雷が酷くなると安全の為でしょうか、村中の電源が切られます。

そうなるともちろん、インター・ネットどころかテレビも見られなければ、暗いので本も読めなくなります。
台所も電気調理台ですので、お茶も飲めません。
つまり、雷が止むまでは、暗闇で座っているしかない、ということですね。

「うーん、そろそろコンピューターを閉じた方が良いかなぁ。雷が落ちると、洒落になんないしな。ちぇ、今日はジムに行かれないな」
そんなことを思いながら、どんよりとした気分でいると、我が家の電話が鳴りました。

普段でしたら私は、電話機に表示された相手の番号を確認してから、受話器を取るのですが、ハズレ夏で既に十分鬱な上、激しくなる雨のせいで、益々落ち込み始めた私は、何も考えずに電話を取りました。
憂鬱だと、注意力も散漫になるのですね。

「あら、みんつ、久しぶり〜」
受話器の向こうから、義母の作った様に明るい声が響きます。
(注:今日初めて私の日記を読む方へ。
私と義母は、もういい加減すれ違い過ぎていて、修正する気力もないのです。興味のある方は、過去の日記を幾つかどうぞ)

「ええと、そうですね、お久しぶりですかね」
「元気にしてる?」
「はい、元気です。お義母さん達は?」
「ありがとう。私達も元気よ」

この会話、気付きましたか?
これ、学校の義務教育で習う英会話、みたいでしょう?
「How are you?」「I am fine,thank you. And you?」……
義務教育の英語は役に立たない、と良く言われますが、我が家では、(ドイツ語ですが)思いっ切り役に立つんです。
もちろん、この後は軽い沈黙です。

「そっちはどう、雨、降っている?」
会話が思い付かない時は、そう、天気の話ですね。
「はい、降っています」
「こっちもよ」
「あぁ、そうですか」
「雷はどう?」
「はい、鳴ってます。雨が強くなって来ているから、雷も激しくなりそうです」

再び、今度は長い沈黙です。
私は、さっさと電話を終らせる事にしました。
「ええと、B氏は今現場ですけど、帰って来たら電話を入れるように言いましょうか?」
「ううん、いいわ。用はないから」

電話が苦手な私には、よく分らないのですが、世の中には、電話を掛けるという行為自体が、好きな人もいるのでしょうか?

「はぁ、そうですか」
「あのね、雷が鳴っているんで、みんつが家で一人、怖がっているんじゃないかと思って」
「!!!」

私、もう、本当に本当に、いい歳をした大人なんです。
場合によっては、成人した子供がいてもおかしくない位の年なんです。
雷が恐いかですって?

……ひぃ〜、お義母さんのこの攻撃の方が、遙かに恐いです。

2007年8月17日 (金)  夏だ!

皆様、暑中お見舞い申し上げます。
日本はきっと、暑いんでしょうね。

ここアルプスは、今日も雨&霧です。
はい、寒いですよ。
靴下は2枚重ねですから。

私はといえば、今日も前頭葉の辺りがず〜んと重く、ええ、ええ、落ち込んでいます。

日記の更新もね、ネタはあるんですけど、やる気が……
このまま行くと、本当にやばそうです。

で、今日は皆さんに、そんな私のどんよりとした気分を理解して貰おうと、写真を撮ってみました。

いつものアルプスの夏(↓)。


(山の雪は、もちろん溶けますが、こんな風にすかーんと晴れます。)

良いでしょう?
こんな景色の中なら、住んでみたくもなりますよね?


で、今年の夏(↓)。


(ちなみにこれは、上の写真と同じ位置ですよ。)

毎日ではないけれど、こんな日が6月から続いているんです。

……ね、鬱にもなるでしょう?

2007年8月20日 (月)  バカは罪

スイスに住んでいると、「え、今のは何なの? 本当に起こった事?!」と、自分の目や耳を疑いたくなるような事が、普通に起こります。
時には、それがあまりにも突飛、或いは私の常識的な想像を超えている為、唖然としたままやり過ごす結果になってしまう場合も、多々あります。

それは、土曜日の夕方、夫B氏の従兄弟K氏・E嬢夫妻が催した、バーベキュー・パーティーで起こりました。

パーティーの参加者は、夫妻の友人や身内達とその関係者(パートナーや子供達)で、計50人ぐらいいたでしょうか。
K氏所有のキャンピング場には、たくさんの机やベンチが置かれ、夕方になると、次々と参加者が集まり、思い思いの場所に席を取りました。

パーティー会場が遠い為、前日から泊まりで来ていた我が夫婦は、もちろん誰よりも先に会場入りしていましたし――正確に言うなら、そのキャンピング場の隅に、テントを張っていたのです――参加者の中に従兄弟夫妻以外、知人がいませんでしたので、適当な場所に座っていました。

「ここ、良いかしら?」
見ると、私と同年代ぐらいの女性が、後ろに赤ん坊を抱いた夫らしき人物を連れて、立っています。
「ええ、もちろん」
この手のパーティーで、いつまでも自分の隣の席が空いているというのは、何となく寂しいものです。
私は、その夫妻を快く迎えました。

お互いに自己紹介をした後、当然といえば当然ですが、どちらからともなく同じ質問が出ます。
「それで、K氏・E嬢夫妻とは、どういう関係?」

するとどうでしょう、私達は何と、親戚同士だったのです。
B氏はK氏の従兄弟、その女性A嬢は、E嬢の従姉妹というわけです。
という事で、私達はいとも簡単に話題を見付け、楽しく歓談し始めました。

さて、暫く経った頃です。
やはり同年代ぐらいかと思われる、一人の女性が、私達の所へやって来ました。

スイスではこういう場合、後から来た人が先に来ている人の所を周り、挨拶をするのですが――もちろん、先に来ている人が大勢の時は、知人の側に座るか、適当な空席を見付けて座り、その周りの人だけに挨拶をします――彼女もその為に、私達の所に来ました。

「xxです」
「みんつです」
インテリもしくは新進芸術家風とでもいう様な、小さな長方形の黒縁眼鏡を掛けたその女性は、私と握手をした後、隣のA嬢にも挨拶をしました。

そして、A嬢の膝の上の赤ん坊を覗き込むと、こう言いました。
「あら、この子、黄疸なんじゃない? 皮膚が黄色いわよ」
……ええええっ!! この女、今なんて言った?! 黄疸って、言ったよね?! 私の聞き間違いじゃ、ないよね?

信じられますか?
この女性とA嬢は、今の今が初対面で、まだ握手を交わしただけなのです。
それなのに、いきなりその子を「黄疸だ」だなんて、普通言いますか?

その赤ん坊は、私が見る限り、至って元気そうですし、黄色くも何ともありません。
いえ、100歩譲って、その子が本当に黄疸だとしても、初対面でそんな事、言いますか?
赤ん坊はもちろん、両親は、本気で苦しんでいるかも知れないじゃないですか。
黄疸なんて、そんなに気軽に言って良い病気じゃ、ないですよね?
「あら、鼻が垂れちゃってるわ。風邪?」というのとは、大違いですよね?

そしてその女性は、それだけ言い放つと、唖然としている私達を残して、他の人達の所へ挨拶に行ってしまいました。

ええと、こういう時、最近の若い人は、何て言うんでしたっけ?
ほら、あれ、そう、

……そこの女、逝ってよし!

2007年8月22日 (水)  三者三様

天候によって多少の変更はありますが、特別な予定がない場合、私は週に3回(大体一日置きに)、2つ隣の村にあるジムへ通っています。

これは、元々町のジムに通っていた村の青年三人が、小学校が閉校になった時に思い付いた案で、教室に都会のジムで不要になった中古機材を設置し、その機材購入代と教室の賃貸料程度が稼げれば良いという事で、皆に格安で提供している場です。

ですから、普通のジムの様なサービスがない代りに――従業員は一切いませんし、機材も少し壊れていたりします――会員は皆、小学校の鍵を与えられ、1年365日・1日24時間いつでも好きな時に、ここを使用出来ます。

で、専業主婦である私は、その特典を活用して、誰も来ない真っ昼間にマウンテン・バイクを走らせ、一人でのんびりとここを利用しているのです。
そして、そんな様子は、こういう小さな村ですと、周囲に必ず知られている筈なのですが……

多分、行動の時間帯が一緒なのでしょう、私がジムから帰って来ると、ほぼ毎回と言って良い程、近所のお婆ちゃんL嬢に出くわします。
このL嬢は、私の畑仲間という感じの人物で、私は、このお婆ちゃんが割と好きですから、毎回マウンテン・バイクを止めてお喋りをしたり、彼女の畑を覗いたりします。

ですから、L嬢にとって私は、しょっちゅう自転車に乗って何処かに行っているか、そうでない時は、畑で泥だらけになっている、元気の良い日本人という事になります。

下の階に住むお婆ちゃんA嬢は、私とは行動の時間帯が全く違い、基本的に、早朝か夕方の涼しい時間帯に外へ出ます。
ただ、私とお喋りがしたい様で、私が午後の暑い時間に畑に出ていると、何だかんだと理由を付けて、私の所に来ます。

しかし、皆さんももうご存知のように、今年のアルプスは雨の多い夏ですから、例年に比べ、私が畑に出ている時間は、かなり少ないです。
その上、晴れた日の私は、せっせとジムに通っていますから、A嬢が私を見る機会は、今夏はやはり少ないのです。

ですから、A嬢にとって私は、家の中にばかり閉じ籠もっている、変な日本人という事になります。

私が畑をする時はいつも、汚れても良い様にと、持っている服の中で一番みすぼらしい物を着ていますし、靴も、どろどろになっても惜しくない物を履きます。
また、長時間しゃがんでいても窮屈でない様にと、身体を締め付けない服を着ます。

そしてある時、夫B氏が何処かの店から、作業用オーバー・オールを貰って来たのですが、B氏には小さ過ぎた為、今夏からそれは、私の畑用作業着となりました。
自分で長過ぎる裾を詰めたり、肩の紐を短くしたりはしましたが、実際この作業着は、私には幾分大き過ぎますから、端から見ると、「随分とゆったりした服を着ているな」と思えるかも知れません。

近所のW氏は、B氏のウニ・ホッケー(室内でやるホッケーです)仲間なのですが、多分、畑仕事のついでにゴミを出しに行ったり、その辺をうろついている私を見かけたのでしょう、私の来ている服が気になりました。
「おい、B氏、みんつはいつも腹周りの緩いオーバー・オールを着ているけど、妊娠しているのかい?」

いつも外を飛び回っている、元気の良いみんつ。
一人で暗く引き籠もっているみんつ。
妊娠したみんつ。……

L嬢は「外に出掛けている時のみんつ」、A嬢は「家にいる時のみんつ」を見ているのですが、どちらも実は、真実の半分でしかありませんね。
W氏の場合は、子供の数が足らず、この村の小学校までもが廃校になり、自分の娘達が隣村まで行かなくてはいけなくなる事を心配していますから、彼の希望が混ざっているのではないでしょうか。
少なくとも、自転車を乗り回している私を見ているL嬢には、『みんつ妊娠説』は大笑いでしょう。

ただ一人の人物を語っているだけなのに、どの部分に焦点を当てて見るかによって、随分と違う像が出来上がりますね。
私自身がどうかではなく、「各自がそこにどんな像を見出したいか」によって、「みんつとはどんな人物か」が違って来るのです。

……大丈夫、貴方が好意を感じる人は、貴方の良い面を見てくれていますから。そんなもんです。

2007年8月23日 (木)  スイス人は合理的か?

スイスでは、ある会社に電話を入れて問い合わせ等をするのは、非常に面倒です。
これは、私が外国人だからではなく、多くのスイス人にとっても、出来ればやりたくない事なのです。

この、企業に電話をするという事が嫌で、多少の間違いなら泣き寝入りしてしまうスイス人は、案外少なくありません。
まあ、彼らは「俺(私)は、そんな小さな事には拘らないさ」という様な見栄を張りますが、本心は、この面倒な電話が嫌なのです。

ある日の事です。
夫B氏とG氏が、カタログを開いて、眉間に皺を寄せていました。

G氏は、B氏の仕事仲間で、イタリア語圏のスイス人なのですが、B氏同様、どちらかというと大人しい、シャイな感じの男性です。
そしてスイスでは、残念ながら、こういうタイプの人物は軽くあしらわれがちなのです。
簡単な話、そういう扱いをしても文句を言わないと、見られてしまうのですね。
で、その結果、この手の人物は益々シャイになるわけです。

さて、そんな2人が、電話帳程もあるカタログを前に、重苦しい空気を漂わせています。
「なんだ、このポイントっていうのは?」
「何処かに説明があるかも知れない」
カタログの前や後ろを捲り、眉間により深い皺を刻む2人。

「とりあえず、ポイントっていうのは後回しにして、別の器具を見よう」
「おお、そうだな」
「これは幾らなんだ? 値段は何処に書いてあるんだろう?」
「ここに100個分の値段があるけど、これを純粋に100で割れば良いのか?」
「でも、この数字は割り切れないぞ」
がっくり肩を落とす2人。

「もしかしたら、別のページにもっと良いのがあるかも知れない。先を見てみよう」
「そうだな。そっちには、分りやすい値段があるかも知れないな」
「あぁ、これもポイントになってる」
「これは、100個じゃないと売って貰えないのか? 俺はせいぜい、5個ぐらいしか要らないんだけど」
再び暗い雰囲気でうつむく2人。

隣でテレビを見ていた私は、あまりにも長い間堂々巡りをしている2人の会話が気になり、カタログを覗き込みました。

「これ、医療器具のカタログだよね。ポイントっていうのは、多分、保険の関係だと思うよ。病院って、点数制で計算して、月末とかにその差額を払ったりするんじゃない? 100個単位なのは、注射器1本だけ買う病院はないからね。だから、値段が割り切れないのは、大量に買った時のサービス価格っていうかさ、そういう事じゃない?」

「じゃ、これは1個幾らなんだ?」
「うーん、その前に、1個で売って貰えるのかどうか、確かめた方が良いんじゃない?」
「でも、一個で売っているのもあるぞ」
「そりゃ、事務所の箪笥や机なんて、大量に買う物じゃないじゃん。電話して聞いたら?」
「電話はするけど、ある程度事前調査をして置いた方が、聞きたい事がはっきりするから」
「そうだよな、もう少しカタログを見てみよう。その内、システムが分るかも知れない」

ところが2人は、またもや同じ会話を繰り返します。
「ねぇ、電話した方が絶対早いって」
「電話はするさ。ただ、まずはカタログで下調べをしないと」
「ひょっとして、2人とも電話をするのが嫌なんじゃない? もしさ、今ここで私が電話をして聞いて上げるって言ったら、それでも2人は下調べを続けるの?」

するとどうでしょう、2人は顔をぱっと輝かせ、声を揃えて言いました。
「みんつが、電話してくれるのか?!」
やはり2人とも、カタログの会社に電話出来ずにいただけなのです。

「ええと、1個売りするのかどうかと、その場合の価格を聞けば良いのね? じゃ、電話番号見るから、カタログ貸して」
「みんつ、ありがとう」
「助かるよ、みんつ」

そして、電話機を前にカタログを手にした私は、あることに気付き、愕然としました。

「このカタログ、もう10年近く前の物じゃない! こんなの無効だよ。扱ってる商品や商品番号は絶対変ってるし、場合によっては、会社自体がもうないかも知れないじゃない。貴方達、1時間近くこんな物見てたけど、知ってたの?」
ばつが悪そうに、「知っていた」と認める2人。

この後私が、2人に新しいカタログを注文した事は、言うまでもありません。

2007年8月27日 (月)  外国語の罠

【mögen(ムーゲン):好む、…したい】

「Magst du Kartoffeln(マグストゥ ドゥ カルトッフェルン)?」
 :君はじゃが芋(Kartoffeln)が好きかい?
「Magst du tragen(マグストゥ ドゥ トラーゲン)?」
 :君は運び(tragen)たいかい?
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私が畑に出ていると、通りの向こうで、隣の親爺が怒鳴っています。
「おい、お前!」

これはきっと、私の事でしょうね。
しかし、はっきり言って、この親爺にこんな呼ばれ方をするのは、全く気に入りませんので、私は知らない振りをしました。

「お前!」
ところが親爺は、益々大きな声を上げます。

仕方がありません、うるさいので私が振り向くと、親爺は「こっちへ来い」と手招きをします。
……あのな、用のあるお前が、こっちに来い!
私はこういうのが嫌いですから、怪訝そうな顔をして見せました。

「Magst du ?」
……何がだよ? 目的語が抜けてるんだって。
「何が?」
「じゃが芋」
見ると親爺の手には、20kg(もっと?)は入っているかと思われる、じゃが芋の袋が握られています。
「Magst du nicht ?」:(nichtは否定です。)
……じゃが芋をくれるのか? やっと、友好的な関係を築く気になったのかも?

この親爺は、無愛想もいいところで、今まで挨拶すらまともに返してくれなかったのですが、そういう事なら話は別です。
私は腰を上げると、通りの向こうへ行きました。

「これは、A夫人にだ」
A夫人とは、下の階に住むお婆ちゃんの事ですが、お婆ちゃんのじゃが芋と私は、どんな関係があるのでしょう?
「え、何?」

不審そうな顔の私に、親爺がまた言います。
「Magst du ?」
……だからさ、何の話なのよ。
「じゃが芋? それとも、運べって事?」
「Magst du nicht ?」
……お前なぁ。 

「これは重いわ」
「俺が運ぼうか?」
……「運ぼうか?」って、何で私が運ばなくちゃなんないのよ。私は、小間使いでもなんでもないんだからね。
「はい、そうして貰えると助かります。じゃ、彼女を呼んで来ますね」

ところが、私とお婆ちゃんが庭に出てみると、じゃが芋の袋は地下倉庫の扉前に置かれていて、親爺の姿は既にありません。

困惑気味の私に、お婆ちゃんが言います。
「ああ、あれは私のじゃが芋よ」
そしてお婆ちゃんは、倉庫の扉を開けると、その大きなじゃが芋の袋の上に屈み込んで、言いました。
「Magst du ?」
……お前もか!! 

「じゃが芋なら、私、ありますから」
「Magst du nicht ?」
「じゃが芋は、あります」
「運ぶの、手伝って貰えるかしら?」
……お前らみんな、詐欺師みたいじゃないか。

『みんつの一言アドヴァイス』
スイス人に、「Magst du(マグストゥ ドゥ)?」と聞かれたら、とりあえず、「Nein(ナイン):いいえ」と答えましょう。

2007年8月29日 (水)  国際的な名前

最初にお断りして置きますが、今日の日記は、人によっては繊細なテーマかも知れません。
しかし私は、この日記で誰かを攻撃しようとか、バカにしようという意図は全くありません。
あくまでもお遊びですから、もし当てはまる方がいましたら、ご自身の事は棚に上げて、気軽にお楽しみ下さい。

さて本題。

私の周りを見ても、最近の日本の子供には、凝った名前が多い様に思います。
率直な感想を言えば、「お洒落だなぁ」と思います。

私の妹に長女が産まれた時、妹の義父が提案した名前なども、とても“お祖父ちゃん”が考えたとは思えない、今風の格好良い名前でしたし、知人の子供達の中には、外国名かと思う様なものもあります。

親というのはきっと、子供の名前に色々な思いを託すのでしょうね。

そして、そんな思いの一つに、「海外でも通用する名前」「国際的な名前」というのがある様ですが、実際海外に出ている私としては、少々疑問に思う事があるのです。

ということで、今日は、みんつ的「名付けの注意点」を書いてみようかと思います。

まず、これは普通に考えれば、簡単に分る事だと思いますが、「飲食物の外国語読み名」は避けた方が良いと思います。

想像してみて下さい。
ある日、貴方の家に外国からお客さんが来て、こう名乗ったとします。
「初めまして、私の名前は『麦茶』です」
ね、絶対変でしょう?

『ここあ』『みるく』『らいむ』『もか』……等々。
この手の名前は、「決して外国・外国人と接する事のない人向け」の名前だと思います。

次に、「音感だけでなく、意味を考えよう」です。

例えばある時、ある日本人女性が、我が夫B氏にこう自己紹介をしました。
「初めまして。『ロコ』って呼んで下さい」
これを聞いたB氏は、困惑気味の顔で、私にそっと耳打ちしました。
「『ロコ』って、スペイン語で『気の狂った』って意味だけど、彼女は知ってるのかな?」

その女性は、英語圏に留学経験があったので、多分そこで、そのあだ名を付けてもらったのでしょう。
でもね、スイスに住んでいると、英語は、決して身近な言語ではないのです。

もちろん、世界中の各言語で意味を調べるのは無理ですから、私個人が思うには、「中途半端に外国語っぽい名前よりは、普通の日本名の方がかえって国際的」だと思います。
実際、スイス人が日本人の名前で一番関心を示すのは、その名前(漢字)にどんな意味があるのか、なのです。

また、言語によっては、発音が全く違う(もしくは発音しない)音があります。

例えばドイツ語ですと、「ワ行」は「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」になりますし、「H」は発音しない場合があります。
「J」「V」「G」「Z」等も英語とは違います。
アルファベットの組み合わせによっても、この違いは色々ありますので、「外国人でも発音しやすい様に」と考えた場合、英語読み風が必ずしも発音しやすい、とは限りません。

もう一つは、自分で発音出来るのか、です。

日本語の「ラ行」は「L」と「R」の中間の音ですが、こちらでは、この2つの音ははっきりと区別されます。
「L」は英語同様、上の前歯の裏に舌の先を付けて発音しますが、スイスでは、「R」は巻き舌です。
「ラ行」の名前の場合、どっちの音で説明しますか?
日本風の発音は、逆に、スイス人には出来ませんからねぇ。

で、結論は、
「子供の名前を国際的にしたいと考えるなら、外国ではどうか等という事は、綺麗さっぱり忘れてしまえ」です。

……案外「健」だの「明子」だのが、一番簡単に覚えて貰える名前なんですよ。

2007年8月31日 (金)  お熱いのがお好き?

それは、寒い今年の夏の中で、珍しく暑い日の午後です。
私は、酪農家H氏・M嬢夫妻の手伝いで、近村の屠殺場へ仔牛肉の袋詰めに行くところでした。

「今日は暑いな。山の下は、37度まで上がるらしいぞ」
車に乗り込んだ私に、運転席からH氏が言います。
「うわぁ。じゃ、今日みたいな日は、冷蔵庫の中で働くの、ちょうど良いね。ちなみにこの辺は今、何度?」
「おっ、ここも30度あるぞ。車内はサウナだな」
私達3人は、車の窓を全開にして、山を降り始めました。

「今日は、仔牛2頭分なんだ。少し忙しくなると思うけど、大丈夫かな?」
「うん、大丈夫。今日は、部屋中に牛の脚とか、吊ってあると良いな」
「ほらね。みんつは、本当に全然平気なのよ。実際貴方とやるよりも、ずっとはかどるわ」
前回参加しなかったH氏に、女だけのチーム・ワークが如何に効率的か、M嬢が力説します。

「へぇ、へぇ。俺はせいぜい、2人の邪魔にならない様、隅っこで大人しくしてますよ」
「H氏は、重い物運び担当ね」
「聞いたか、M嬢? みんつはもう、俺を仕切ろうとしてるぞ」
そんな会話をしていると、車が高速道路に入り、私達は3人とも、自動的に車の窓を閉めました。

もちろんこれは、車内に冷房を入れる為ですよね。
高速道路で窓を全開にしていたら、何よりもうるさいですし、風の抵抗でガソリンも食いますから、冷房を入れた方が、節約になるというわけです。

新鮮な山の風が入らなくなった車内は、むっとし始めますが、これは、冷房がある程度効くまでの辛抱です。
私達は、そのまま会話を続けながら、高速道路を走っていました。

ところが、

……あれ、おかしいな。さっきより暑くなってる気がする。……否、きっと車が古くて、冷房が効くまでに時間がかかるんだ。……もうちょっと待ってみよう。

……ん? もっと暑くなった気がするけど、気のせいかな?……もう、5分以上は経ってるよな。……うちの車は、もっと早く涼しくなるけど……でも、2人とも何も言わないし。

車に関して全く知識のない私は、持ち主である2人が何も言わないのですから、「多分この車は、そういう車なんだろう」と思い、もう少し辛抱する事にしました。

しかし、車内の温度表示は、それがもし我が家のものと同じ仕組みであるなら、「27℃」となっています。
普通冷房を入れるのなら、22℃とかそのぐらいですよね?

……うーん、どうしよう?……あの27℃っていうのは、何だ?……暑過ぎじゃないか、この車は?……窓、開けちゃおうかな。

しかし窓は、チャイルド・ロックになっているのか、私の側からは開けられません。
仕方がありませんので、私は、遠慮気味に聞きました。

「H氏、あのさ、この車は今、冷房しているんだよね? そこに表示されている27℃っていうのは、まさか温度設定じゃないよね? 27℃じゃ、暖房だもんねぇ」
「そうよね、私も暑いと思ってたのよ。冷房、壊れたのかしら?」
M嬢も私の意見に同意の様です。

するとH氏が、こう答えました。
「冷房じゃないけど、外の空気が入るようにしてあるよ。おかしいな、何で涼しくならないんだろう?」
「えっ! 外の空気って……」
「何だ? まずいのか?」

「だってH氏、さっき自分で、山の下は37℃になるって言ったじゃん。外の空気を入れるって事は、車の中は37℃になるんじゃないの? 否、閉めっ切りで陽に当たってるから、もっと上がるかもよ」
「あっ!」
慌てて冷房に切り替えるH氏と、黙って窓を全開にするM嬢。

……誰ですか、今、「みんつ家に似ている」と思ったのは?

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